箱舟が出る港 第三章 二節 箱舟が出る港 二

murasameqtaro2007-01-07

ジム.スタンフォード
の眼は遠い昔を捉えていた。
今も網膜に漆黒と
刻印された、
それは不思議なフネであった。
アメリカ太平洋艦隊は空から、
海から、そして海中から
何発の機銃を爆弾をそして魚雷を
叩き込んだか分らない。
尋常であれば、
とうに沈没していなくてはいけない。
計り知れない弾薬が、フネに叩き込まれた。



赤銅色した装甲はものの見事に攻撃を弾き返していた。
...全く手も足も出ない...
悪魔のフネだ、一隻の軍艦によってこの海戦は負けるかも
知れない...
当時のジムの頭を戦慄が過ぎった。
その悪魔のフネ=駆逐艦大風は、攻撃の時期を見計らっている
ようにも思えた。
十五センチ砲が六門見える。
火は一切吐いていない。
爆雷も投下していない。
何の抵抗もしていない。
故障かと訝んだ。
故障であったら助かる。
日米両国の海戦の間を、嘲笑うように大風は悠々と動いている。


....目的は何か?任務は何か?
日本軍の沈没艦から漂流した兵を救おうともしない。
...何なのだあのフネは...?
その時であった。
シマカゼ、何をしておるかっ!!応戦せよ!!
日本軍の無線を傍受した。
シマカゼだと?
艦体にはオオカゼ(タイフーン)とある?
応戦どころか何もしないフネはこの一隻しかない。

あっ!!?


するともしかして、日本軍も知らないのではないか?
だとすれば違う目的が確かに背後にある。
三者が確かに居るはずである。
それは途方もない優秀な一団であろう、
ものの見事に自国をも欺いてここまでやって来たのだから。
詳しい事は、今は考えていられなかった。
自らが乗る空母ヨークタウンにも、
日本軍の艦爆が襲って来た。
蚊のように蝿のように。
後はよく覚えていない。