2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

箱舟が出る港 第五章 一節 霖雨 一

「レベル3確認しました。発信地はブラジル、セルバ地方。テフェシティ より北北東へ87キロメートル。西経75度20分、南緯8度25分。やまぐも 現在地からは、スキャンは無理です。偵察攻撃レーザー衛星、モスキートを 分離致しますか? ブラジル上空まで25分。誤…

箱舟が出る港 第四章 戦い 二十一

土塊のような風が密林を微かに揺るがせた。 それは懐かしくも愛すべき長年の友を探すような咆哮に似ていた。 問われた密林は、知らないよ、聞いてみようと葉に、枝に、草に、 さらさらと言付けを伝播させるが、こだまさえ返させないと言う断固たる 姿勢は、…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 二十

「あそこに穴が開いている。多分大きな獣か何かが落ちたんだ。敵陣の周り には、落とし穴があるな。串刺しになるか、ピラニアに食われるか、落ちてみな けりゃわからねぇが」 擂鉢状の形地は底に作られた丸太の砦。 三人の若者は砦を囲む巧みに隠された堀を…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十九

ジャングルの未開地は、 全く厄介な場である。 例えばナメクジは、 固体の命を捨てて、 行くべき場所へと続く 仲間に橋渡しを するという。 地獄のようなジャングルの中に、 ポッカリと開いた直径600メートル程の 円形の更地と、その中心に建てられた 丸太の…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十八

「死なばこの重き大地よ曼珠沙華、か・・・・・」 丸太で作られた小屋の隙間から見える向うは、何かを飲み込んだ アナコンダの腹で、魂の抵抗を遮断するような構図が幽々と揺れていた。 やはりここはアマゾンの未開地だろうと、高根沢雄一郎総理大臣は、ケン…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十七

「感覚的に理解が出来る?.....まさか君は心臓に異常を感じたと言うので は....」 「いえ....? でもどうしてそれを.....」 「実は俺、君の学校に関係している職場で、ガラにもなく講師もしているもん でね。世間を賑わせている常央大学で、地質学の教鞭をとっ…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十六

.....どうやらケリがついたようだな。 .....ああ、流石は立花だ。見ろ、猟鬼のヤツラ、おとなしくバイクを 押して帰るぞ。 ....リーダーが出て来たな。両肩を支えられているぜ、おっ!立花が見送 っている。 ....余裕だな。頭を潰し、即残りを戦意喪失させた…

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十五

「邪魔するぜ、おっさん!」 強者の周りをウロウロし、喧嘩が弱い癖に、いつの間にかちゃっかりと自分を アピールしているという狡猾な目が、おじさん、を睨み振り返ると、おい、と仲間を 手招きした。大人になって改心すれば、商才を発揮するタイプである。 …

箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十四

長袖のTシャツを肩まで引っ張り上げた。 野球のボール程の大きさの石を拾って、力の限りぶん投げた。 その作業を、何度となく、繰り返した。 台風の過ぎた後の空は、何処までも何処までも青かった。 いや、台風ではない、風とセットされた、雨が伴わない嵐だ…

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 十三

船長室にはカビの匂いが、ギザギサと籠っていた。 新調したスーツを着込んで、逃げた妖獣を追い、何処とも知れない山の洞窟に入 り込み、貪られた人骨を探すかのように、トムは古びた航海日誌を捲った。 捲るたび、膝にナイフを突き立てる事を忘れなかった。…

箱舟が出る港 第四章 戦い 十二

【1942.10.1 本日は快晴なり。昨夜までの雨が嘘のようである。 航海の先に安堵を見出す。私を含め41名の同士の顔にも、笑顔が集う。 各々が手に取ったテープの先には、家族がそして友が居よう。 私も家族に手を振った。 戦いでなくて、良かったと思うが、複…

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 十一

目的は南極大陸の氷の溶解の調査。 世界各地で、水面が平均5ミリほど上昇したという。 源は南極にある可能性が、大であった。 サンジエゴ港から出港したのが2006年10月1日。 南極大陸、エレバス山が見えたのが同10月18日。 そして今日は2006年10月20日、のは…

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 十

四段構造のグランドステージ号の乗組員室は、全て二階にあった。 乗組員は総勢42名。 船尾の一番奥が船長室である。 二階のコンコース隣両側は観測隊員幹部の部屋であるが トムはそこを無視し、船長室へと急いだ。 船長さえ無事ならば、船は健全なはずだ。 …

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 九

この地球にあってはならない物である。 初めて見たオーロラは、トムの心に何人も近づけない畏怖を 与えるには充分過ぎる程であった。 どのような孤高の善人なりとて、光りと友になる事は 不可能だろうとさえ思われた。 星さえもが賛美歌を歌うように、 あま…

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 八

夢というものは、時として現実になる場合もある。 無慈悲な神は、悪戯心を起こし、境界に立たない事もある。 昼寝でもするかのように、さあどうぞ、とサタンへ手を振り、 思考を一切断絶し、霧のように病葉を布団と消えていく。 継いだサタンの手は、夢を手…

箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 七

「君を逮捕する」 公安警察捜査員、蓼科と言う男がしたり顔で、伏見から無造作に タバコを取り上げた。 尤も本名かどうかは分らない。 公安警察の実態は、不透明そのものだからだ。 自らの戸籍を消してまでも、不穏分子の側に潜り込む。 労基法違反と言うの…