2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

開きかけた 朝顔の鉢が 横倒しになっていた。 土は玄関の前に飛び散り、 青き茎は息吹を送る事なく 蕾の側に無造作に切断さ れていた。 朝から何人の人間が訪れては 去ったのか解らない。 娘と一緒に育てようとした約束の花は 開く事がなく、他人にとっては…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

コンタクトを 眼鏡に変え、 ありきたりの ヘンリーネックの Tシャツにジーンズ。 洗い髪を車の中で 気にはしたが、 比較的短めの髪が幸いして 乾いたが、スタイルはサマにならない。 どこでも居るような中年親父の格好だが、 眼鏡の奥の目は職業を隠せない。…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

教室に入り終えないうちに、 どよめきが起こった。 「すんげー美形!!」 「わあ、綺麗なんだぁ!!」 「やったー!!」 担任が制しても、 歓喜は暫く止まなかった。 宝石を観るような眼差しは、ただ一人を残してクラスの全員が、その少女の全て にうっとりと見と…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

「やはり解らないか・・・」 チワワの毛並みが美しい。 びざにおいた撫でる手には、 老班が濃い。 学校法人那珂川学園 理事長高村一蔵であった。 「あの地帯には、産廃物を 埋めているという良からぬ 噂があります。 あるいはそれがスキャンの 障害になって…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

二本のピンク色で らせん階段のような チューブ状のものが、 交差しながら山口博 の頭上にふうと現れた。 ボイジャー1号と、 敵対するアンノン 【不明物体】は、 今だ膠着状態にある。 互いに計りしれない強力な破壊光線を照射しているが、間に存在する透明…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

薫風が毒島の頭を 撫でた後、公園のいたるところに、 彼の心を伝えるかのように走り出す。 植物の季節はこれからだというのに、 冷たき喧騒が聞こえる。 めんどくさそうに煙草を取り出した毒島は 「じゃあ何か?その匂い袋はおめぇのばあさんの ものだってい…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

35億年前の地球。 水の存在と、 湿度の変動が 和らげられた環境の中で、 生命が誕生したと言わ れる。 原始の海が出来たあと、 大気や岩石に含まれていた 物質は、海の中に溶け込み、 紫外線などのエネルギーに よって結びあったり、 破壊されたりして、 様…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

国立R大学の講師から、 市島学長の強い要望があり、 常央大学に助教授として 序招聘されたのが一年前である。 山下道則は三日ほど取り替えていない 白衣をさも気にせずに教壇に立っていた。 「学名ドロソフィラ・メラノガスター。 黄色ショウジョウバエです…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

茨城県 龍ヶ崎ニュータウン。 盛大でもなく、 貧弱でもない、 ごくありふれた通夜の 日であった。横浜アリーナ 指定席A12。 手垢にまみれた タッキー&翼のコンサートの チケット。 「パパとママとゆかでねぇ、一緒に行くんだ!」 山口ゆかは勉強机から、何度…

箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

大勢の人間が、 エジプトで、 ナスカで、 カッパドキア、 イースター島で、 世界各地で、 年代こそ異なるものの、 星に祈りを乗せていたある日、 その物体は空から集団で飛来し、天変地異の喧騒の中にあった。 信仰していた星星は裏切る事なく使者を連れて来…