2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 二

「世界はこれから、 激動の時代に入る。 日本は間違って しもうたようじゃのう。 あの2.26事件が 分岐点だったとワシは思う。 確かに東北の農民をはじめ皆、 貧しかった。 だが達磨蔵相などを暗殺しても、 なんの解決にもならん。 ならんどころか全体主義へ…

箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 一

昭和15年初夏。 山に登っても、 蒼茫の空が 広がっていた。 下界から観れば 山の頂きあたりに、 蒼は固まっていた。 900メートル近い高さのその頂きに登りつめても、 蒼を掴むことは出来なかった。 柔道の稽古の為はるばる広島は江田島からやって来て、 一時…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 十五

これ以上 無いほどに 保存器を 目に近づけた真理は、 今度は背後へ イスから崩れ落ちて しまった。 いやというほど頭を打ったが、 容器は放さなかった。 意識が遠のいて行くのを感じる。 強く打った頭せいではない。 精神的な遮断である。 つまり巡行の言い…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 十四

皆藤奈々は 美しい。 しかも滝のような 澄んだ目を、 ひとときたりとて、 小糸真理の眼から離さない。 真理は思わず 引き込まれそう になったが、奈々の話しは 到底受け入れ難い。 帰ろうとすれば、何時でも帰れるが、奈々の目だけはうそをついている ように…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 十三

「真理さん? 私は一度死にました。 交通事故です。 気がついたら チューブの中を通り抜け、 白い装束を着て、 沼のほとりにちょうちん を持って、 たたずんでいたのです。 沼にちょうちんの灯りを当てると、 私の仏壇が見えました。 仏壇を中心に父母が兄が…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 十二

「常央大洗は セーラー服だね。 ブレザーが主流 となった今では、 珍しい。 セーラーの白く薄いスカーフ。 私に羽衣を印象付ける。 紺サージ、胸には白い錨の刺繍だ。 いい装束だね。 ・・・錨は、何を表すか知っているかね?」 山中社長は"緑"色の正露丸のよう…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 十一

「驚かれるのも、無理は ないです、ステキな お嬢さん。皆藤くん? 仮採用書類を一式持ってきて くれないか?あ、コーヒーと水、 そして"緑" もお願いする」 何処からかの、キーボードの 微かな音が、ピタリと、止まった。 曲はショパンの英雄ポロネーズだった…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束  十

気丈な真理であったが、 イスから転げ落ちそうになり、 あわててバランスを 修正した。 ロボットだと言われても、 ああそうですか、と納得する事はとても出来ない。 会社側の悪い悪戯なのかと、怒りが込み上げてきた。 手の甲に浮き出た血管、昨夜整えたよう…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 九

「家の近くに 山林があります。 弟が釣りが大好きで、 手作りの竿を作ってます。 材料の竹を取りに 私も付き合うのですが、 ゴミが目立ちます。 不法投棄禁止の 立て札があるにも関わらず、 捨てている人が多いんですね。心が荒廃している のでしょうか? ちい…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 八

茨城県日立市。 巡行日立機械 工業合名会社本社会議室。 晩秋の炎天下、小糸真理は 紺のセーラー服を纏い、面接会場に来ていた。 恋人だった野球部の前エース 心臓麻痺で死亡した、 郡司大介の葬儀が終わってから、 一ヶ月近い時が流れた。 号泣もした、後悔…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 七

横、上、 左右斜めから撮られた 何枚ものデジタル画像が、 大きなモニターに 映し出されていた。 透明な半円形は、 操縦席、コクピットであろうか。 人間と同じように、 宇宙空間を航行するためには、酸素が必要とされる生命体なので あろうか。 二ミリ立方…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 六

ひととおり"回覧"された 【フラスコ】が 一藁の手に戻った。 この金属塊が、望遠鏡だと ? 河原崎以外は 信じられない という顔をしていた。 もっとも河原崎とて、二度目の対面である。 午後三時に、筑波山の"方角"にフラスコを向ければ、何かが見えると言う…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 五

「他には 目撃者は いないのか?」 「聞き取り捜査は勿論、 インターネットも使い 情報提供を呼びかけておりますが、 ありません。 あるのは金目的の信用に値しないガセネタ・・・デタラメなものば かりです」 早口で公文寺は一気にまくしたてた。 能無しめが、と…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 四

「さてと、 庶民が去った。 優秀だと評判の 男だったが期待外れだ。 他に一般大衆になりたい と思う者はいるか?」 三本目のブラックデビル チョコレートを出した一藁に、民主自由党総務会長大八木麓輔が、自慢の ダンヒルを近づけた。 「人は野望を持たなく…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 三

「・・・だろうな。 ワシもMMVとαは 別次元のものと思う。 互いに異質だ。 MMVに対し 人は好んで 心の鍵を開け、 迎え入れている感じもしないでは、ない。 攻めどころが、攻めどころだからな・・・。 欲望か・・・痛いところを攻撃している。感染しても女は…

箱舟が出る港 第六章 二節 装束 二

「高村か、聞かんな・・・ふん・・・ところで厚生労働大臣、αは?」 小石礼子厚生労働相が、織原茂樹事務次官と耳打ちをした。 「また、一段と成長したようです。身長2メートル20、体重250キロ、 常盤製薬研究所の中で、眼をぎらつかせているようです」 「蝿…