2008-01-01から1年間の記事一覧

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

「で、おめおめと帰って来たわけだ・・・?」 剣幕たるや怒涛の如く、その鶴のような喉からの非難を覚悟したが、 案に相違し、柔らかな表情と声であった。 「・・・その・・・常央教授陣は市島に心酔してまして・・・隙がなく ・・・はぁ・・・私の力不足でご…

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

「軌道修正0.02フィート・・・スペースバンカーバスター発射準備 ・・・ようそろ」 人工知能ハート【心】の無機質な作戦開始の声。 「軌道修正0.02なり、ようそろ!」 近頃眉間の皺が深くなったマークが続ける。 宇宙船やまぐもの位置測定ディスプレイに、そ…

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

オレゴンボルテックス・・・ ケントは豊かな髪を掻き毟った。 たかがSFじみた話であると一笑にしたケントだったが、引っかかる ものがあった事は確かだったと回想する。 遠慮がちに言う執務官の目は嘘でも冗談でもなく見えた。 もう少し話に興味を持てばよか…

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

移動した手段は何か? クロロフォルムを嗅がされ、キャンプデービットから拉致された 指導者ふたり。 ここがアマゾンの奥地なら、ヘリコプターは着陸出来ない。 例えキャンプデーピットを賊が離陸したとしても、アメリカの ヘリコか戦闘機が、追跡に乗り出す…

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

青く透き通り動じようとせずにいたものの、何に泣くか怒るか悲しむと いうのかしらん、濁ったものを纏い浜辺に、汚れを浜辺に捨てに来る。 誰かが書き、浜辺に置かれた絵画は、捨てられたものだろう。 取りに戻る事はないのか。 人の心は海のようなものであ…

箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

ピキーーーーーーッ・・・ 青々とその瞳に光が入る。そして・・・細い。 ピアノ線を思わせる眼と同じ色のビームが、首を下げ 立てた双方の耳の中から、足元の地下をめがけて放射された。 小型艇ロナルド・レーガンから降りた戦闘ロボット、ウルフ16000は月面…

箱舟が出る港 第三劇  二章 月世界の戦慄

高さ丁度四千メートル。 富士山より高い人工物が月世界に存在した。 限られたUFOや宇宙人マニアの間ではその名も【月のクリスタルタワー】 と呼ばれている。 アポロ計画などによって撮影された写真が現存する。 月面からの撮影にも関わらず、NASAは光…

箱舟が出る港 第三劇  二章 月世界の戦慄

くそ親父が・・・ 新型ケータイは樺沢光記が買ってくれたもの。 しかし、しぶしぶ、だ。 中企業ではあるが、経営者ともなると、年収5000万以上にもなる。 なのにだ。 そのケチぶりは700名を擁する社員だけでなく、身内にも実にシビア であった。 19歳にもな…

箱舟が出る港 第三劇  二章 月世界の戦慄

ミッドウェイ島近くに停泊するミリオンダラー号の姿は客船から戦闘艦に 変わった。 高さたるや五階立てのビルに相当する船室部分が、まるで熱に溶かされた セルロイドのように歪曲して溶け、じわじわと中心に集まり、一瞬のうちに 東京タワーのような一本の…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

2006年12月。 5月から地球全体を襲う猛暑は今だ居座り続け、深刻な水不足が害虫の ように世界中を蝕む。 人工的に雨を降らせるという科学的な戦いも行われたが、あまりにも 自然的でない夏は強固に抵抗し人類の挑戦をいっさい受け付けなかった。 海水を飲料…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

北へ向かう彷徨者が居た。 37歳の男であった。 32で結婚し、33で子が生まれた、妻の故郷で。 北上線ゼロ番線のベンチに座り、月に一度しか会えない娘を、不憫に 思った。 籠を背負った老婆、背広姿に長靴の初老の男、ルーズソックスなどまだ 履いている女の…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

岩手県北上駅のゼロ番線から出るのはJR北上線である。 終着駅は横手だ。 講習で秋田大学に行く高根沢純は、あえて秋田駅まで直通の東北新幹線 こまち号に乗らず、盛岡行のやまびこ号に乗車し、北上で降りた。 秋田市生まれの純は常盤製薬の川崎士郎の大学の…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

天空にさかさまの形で現れた地上。 その悲しげな草むらから隠れるようにして現れた祖母のロウのような影。 ゆっくりと弱々しく士郎に大島椿を見せたことが怖いのではない。 何かを告げようとしている祖母にむしろ懐かしさを感じた。 恐ろしいのは、どうして…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

士郎は室内の灯りという灯りを点けた。 急いでテレビのリモコンを入れ、音量を大きくした。 人気者のお笑い芸人が馬鹿笑いしている。 独り身の士郎にとって、今ディスプレイに映し出された異様な光景を 現実の物と知った脅えからであった。 テレビを見ると士…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

ディスプレイに写った物は川崎士郎にとってどうしても信じられなかった。 長いようで短かった画像。 500ミリのロング缶ビールを一気に飲み干し、呆けたように画面を見つめた。 そこには仕事上のデータだけが残っている。 ダウンロードすればよかったのか? い…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

・・・幻だったのかィ? 知流正吾は公園の中でぐったりとあぐらをかいた。 高月美兎が作った結界の中での戦いに勝利はした。 結界。 美兎が演出した舞台装置は濃霧より混沌としていた。 正吾は灯りを探した。 誘蛾灯に虫どもが集まる。 馬鹿暑い中秋。 光源…

登場人物紹介 二

【政界】 高根沢 雄一郎(内閣総理大臣 65才) 一藁 力(内閣官房長官 78才) 草刈 吉郎(茨城県議会議長 民主自由党茨城県連会長 70才) 井戸畑 匠(科学技術庁長官 52才) 京塚 暁(内閣官房副長官 45才) 小石 礼子(厚生労働大臣 44才) 河原崎 照光(防衛大臣 69才) …

登場人物紹介 一

一劇からまだ語っていない六劇までの登場人物の紹介です。 稚拙な群集劇? 多くが登場しますが、主人公は居て、しかも以外な人になってます。 書いている自分自身変だ、おかしい、下手と思う馬鹿文です。 しかしあと三年は修正しつつ完結までだらただらと続く…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

低い槌音がジャングルのどこかから響いている。 ―――あれは・・・モスキート3!! 常人ならば、絶対に口笛だと見抜けない。 ―――・・・生きていたのか・・・おお・・・居たか、絹川君!! 高根沢の胸に熱いものがこみ上げてきた。 生死など度外視する、桁外れの…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

アマゾンのジャングルの中に作られた擂鉢状の基地。 基地?見た目は基地と呼ぶには少し御粗末な作りだ。 たったひとつのR構造(ラーメン構造)の白き二階建ては本部らしく そこだけは牙城のように見える。足音がした。 集団を認めたふたりを監視する女が緊張…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

曝け出した。 逃げてもいい、通報してもいい。 残りたい人だけ残りたまえと。副学長の井上輝義と彼に追従する数名が離れたが、市島典孝にとっては 計算内、予想していた結果となった。―――考える時間を三日ほど差し上げる。逃げてもいい、ここで聞いた話を 通…

箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

大型コンテナトラックは高萩市内に入ると山間部を目指した。 ゆったりと三人座れる運転席だが、図体のでかいふたりにとって 窮屈である。 運転するは、空手の毒島清人。 助手席で腕組みをし、ひとことも口を聞かない男は、全学応援団団長 知流大吾。 コンテ…

箱舟が出る港 第三劇 一章 やまぐも計画 

1997年早春。 あと二十分で出航する。 北海道、苫小牧港 23時40分。 苫小牧に停泊する大洗行きのフェリー”ばるな”は、客室の光をターミナルに投射 していた。 ―――ヒューン・・・ 乗船の時間が終わりつつある。 汽笛がひとつ、鳴った。 時間がない。 青い電話…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

2006年9月も終りの頃。半熟の卵を食べかけた時、気象情報が流れた。 「稚内でも今日は都心と変わらない暑さで、観測至上最高となるでしょう。 一方海外・・・コペンハーゲンでは・・・」 午前7時15分。 今年の気象は尋常ではない気がする。 水戸の気温は33度5…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

2006年5月10日。 水戸市千波町。 千波湖を見下ろす割烹屋の暖簾を山口猛は潜った。 ―――うっ?・・・臭ぇ・・・なんだこりゃ? 甘い香りが鼻に進入する。 いつもは男の客が殆どの店にコロンの香りが漂ってる。 ―――珍しい事だ。方針を変えたのかぃ? 割烹料理屋「…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

時同じ頃。 デンマーク、コペンハーゲン。 裕福な子弟集まる日本の私立高校が修学旅行に来ていた。 デンマーク・クローネ通貨が乏しくなったある女子高校生がいた。 有名な人魚像を前にしてさてどうしたらいいかと考え込んでしまった。 まだ、コペンハーゲン…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

「こうして、君と同じ空気を吸っている。もっと近くに寄りたいものだが・・・ 今は勘弁して下さい・・・」 「勘弁って・・・? 何を仰るのです、皆藤会長!!」 「正直な君・・・。君に最後の指示を送ります。明日、早暁に大洗へ釣りに行って くれないか?」 「・・・最…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

埼玉の12名の馬鹿者どもが乱パで獣になっていたその夜。 常盤製薬工業株式会社つくば研究所。 夕方。 めったにつくばには来ない代表取締役会長が突然に来社した。 あわてる管理職を尻目に、「いいよ、仕事を続けなさい」と玄関をくぐり 逃げるように会長室に入…

箱舟が出る港 第二劇  五章 MMVウィルス

2006年10月初旬。 筑波山大噴火の二日前の事だった。 長い長い夏は、いまだに海水浴を、人に求めさせていた。 大洗サンビーチ、阿字ヶ浦、大竹の三大海水浴場を擁する茨城の海。 夏の海水浴客として毎年全国一の人出を誇る。 7月から8月にかけて約200万人が…

箱舟が出る港 第二劇 四章 分岐嶺

井上を乗せたタクシーは三郷ジャンクションから首都高に入った。 三ヶ月振りの東京であった。 官房長官一藁力の存在は井上にとって心強い味方であった。 世間で一藁を良く言うものはあまり居ない。 いないどころか、老醜の代議士と国民の反感を買っている。 …