2006-11-01から1ヶ月間の記事一覧

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 九

男は間を置かず 返す刃で上段から、 斜め四十度程の角度で、 化け物の右手を 切りつけた。 赤い火花が散り、 金属の鈍い音がして、 纏った手の凶器が切断され 吹っ飛び、枝を切り裂き、 さほど大きくない木に突き刺さった。 切り落とせたはずだ。 計ったよう…

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 八

切断された左手の中指、薬指から大量の血が 流れていた。 そんな事にはかまってられない。 中腰の不利な体勢から、辛うじて大木を盾にして、 次の攻撃を避けた。 恐ろしい化け物の手である。 力こそ感じられないが、膂力がある、早い。 強靭なカミソリそのま…

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 七

唯根鉄男やまぐも艦長は、メインディスプレイを見ていた。 艦体下弦の格納庫である。 銀色のカタパルトが漆黒の闇のなかに、かすかな唸りを上げて広がっていた。 青い地球が多少の揺れに比例して、震えている。 ツン.... 着陸小型宇宙船艦「ときわ」は今カタ…

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 六

指輪の色が鈍く光っている。 大林学長秘書が、指をキーボードに置いた。 「そこだ! そこで一度止めておいてくれていたまえ!!」 プロジェクターから大画面に投射されたその瞬間を確認すると 市島は秘書を制した。 「宜しいか?ここにひとつの鍵がある、検証は…

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 五

常央大学 本部棟八階大会議室。 楕円型のテーブルの 一番奥に背を向けた 市島典孝が居た。 窓の外は水戸市内が 一望できる。 高層建築の県庁舎が ゆっくりと形を整えつつあった。 強い揺れが収まり、ようやく正常が戻ったばかりである。 遠い筑波山が赤々と…

箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 四

この夜 筑波山を襲った マグニチュード8の 巨大地震は、 男体峰を無作為に 鋭利な刃物で切断し、 いたるところに炎々と赤い赤い血管を 浮かび上げらせた。 血管は破裂し血液のような真紅の火柱を上げ、 まるで蛇に乗ったかの如く 悪魔の集団となり、くねく…