2006-01-01から1年間の記事一覧
一面コバルトブルーの海、珊瑚礁が美しいとは感じた。 二度目の訪れである。 戦艦ミリオンダラーの艦橋にジム.スタンフォードは佇んでいた。 イミテーションゴールドという物の、原子の姿を見た感じがした。 正直な場所である、随分と変わってしまった事を知…
大木から 跳躍した 格闘家の体は 電光石火の如く 化け物の体に迫った。 所謂空手道の真髄、 鮮やかな三角飛びである。 それよりも早く上からの鋭い足の攻撃が、 まるでトンネルへ入る 新幹線のような音と風を纏いながら、 頬に摩擦傷をたたきつけた。 辛うじ…
男は間を置かず 返す刃で上段から、 斜め四十度程の角度で、 化け物の右手を 切りつけた。 赤い火花が散り、 金属の鈍い音がして、 纏った手の凶器が切断され 吹っ飛び、枝を切り裂き、 さほど大きくない木に突き刺さった。 切り落とせたはずだ。 計ったよう…
切断された左手の中指、薬指から大量の血が 流れていた。 そんな事にはかまってられない。 中腰の不利な体勢から、辛うじて大木を盾にして、 次の攻撃を避けた。 恐ろしい化け物の手である。 力こそ感じられないが、膂力がある、早い。 強靭なカミソリそのま…
唯根鉄男やまぐも艦長は、メインディスプレイを見ていた。 艦体下弦の格納庫である。 銀色のカタパルトが漆黒の闇のなかに、かすかな唸りを上げて広がっていた。 青い地球が多少の揺れに比例して、震えている。 ツン.... 着陸小型宇宙船艦「ときわ」は今カタ…
指輪の色が鈍く光っている。 大林学長秘書が、指をキーボードに置いた。 「そこだ! そこで一度止めておいてくれていたまえ!!」 プロジェクターから大画面に投射されたその瞬間を確認すると 市島は秘書を制した。 「宜しいか?ここにひとつの鍵がある、検証は…
常央大学 本部棟八階大会議室。 楕円型のテーブルの 一番奥に背を向けた 市島典孝が居た。 窓の外は水戸市内が 一望できる。 高層建築の県庁舎が ゆっくりと形を整えつつあった。 強い揺れが収まり、ようやく正常が戻ったばかりである。 遠い筑波山が赤々と…
この夜 筑波山を襲った マグニチュード8の 巨大地震は、 男体峰を無作為に 鋭利な刃物で切断し、 いたるところに炎々と赤い赤い血管を 浮かび上げらせた。 血管は破裂し血液のような真紅の火柱を上げ、 まるで蛇に乗ったかの如く 悪魔の集団となり、くねく…
「ふむ....」 知流大吾は空と地を 相互に見つめながら 軽い唸りを上げた。 空には羽を生した化け物が 足にベルトを巻きつけたまま 飛んでいく。 地には我が弟が背中を抉られ、 血を流したまま鬼人の如く ベルトを追っていた。 街路灯が悪魔の光景を演出して…
着地したところは、小さな公園であった。 商店街の外れ、向こう側には家もない田園地帯が広がる。 誰も居ない公園は夕闇に包まれて、弱くなった蛍光灯が 寂しく点いては消え、集まった蛾や虫達が、驚いたように飛び去り、 夕闇に消えて行く。 悪意に気づいた…
二人は階段で地下一階に下りた。 蒸し熱い六畳程の部屋に小さな金庫があった。 独身者用の冷蔵庫程度の大きさである。 「この金庫があの鉱物で....?」 これか、これか、と目を輝かせた高根沢の手が異質な感触を悟った。 今まで感じた事が無い不思議な感触で…
無造作にレーザーメスを当てた。 左足の太ももの裏側である。 我ながら格好悪く窮屈だが、強さを見せねばならない。 幅にして五センチ、深さ三センチほどの皮膚がぱっくりと開いた。 血は一滴も流れていない。 シリコンで包まれたものをピンセットで摘み出し…
中堅百二十メートル、 左翼、右翼ともに 百十メートル。 その周りを壁画のように 林が膠漆している。 向こう側は太平洋が 広がっている。 高台にあるグラウンドであるから、 いつもなら風が強いのだ。 まるでサウナだ。 いやサウナ以上かも知れない。 若い体…
「...で、何人死んだって...」 「...五十八名とか、だ...」 「はっきりした数字か?」 「今日の今日だ、未だ分からんが、そう考えていいだろう」 「死因は?」 「剣持をはじめ病院で亡くなった人たちは、全員心臓麻痺らしい。 海岸その他での死体は現時点で何…
「日本軍艦全覧」 刊行は昭和四十六年、資料提供、、防衛庁戦史室、監修が白川義明とある。 磯前五平は何度ページ捲ったか解らない。 手垢に塗れたその本は、江戸末期から昭和二十年までの間に造船された 艦船を全て網羅していると言われていた。 コルベット…
粗い壁 二三のくわきとある農家の庭できいた 蝿の羽音ああ あのものうい 音楽 思い出の沖の潮騒さては耳鳴り アンヴイタシオン・オ・ヴオアヤアジュ〜三好 達治〜 昨夜見た海蛇に飲まれる光景は半分記憶の彼方に消えていた。 とにかく支度だけは出来た。未明…
精神はすでに限界に来ていた。 男の子だった。 自らの子宮から出た我が子ではあるが、神様が与えてくれたはずだった。 抱いた感触が今でも小さく、暖かく、剣持順子の手に残っていた。 ‥神様、ありがとう‥ 看護婦に抱かれ保育室へ連れられていくわが子の背中…
星条旗の揺れが止まっていた。風が全くない太平洋の真ん中であった。 ミリオンダラー号は東経177度22分、北緯28度13分、その位置までおよそ 二時間程の距離でそのエンジンを切った。 その時、ジム.スタンフォードはわが耳を疑った。こんな場所で「 エンジン …
ヤ二デバの目の前に獲物がいた。 腹がへった。今度は小物だが、若いようで、実に美味そうである。 仲間も食料を、追っている。大きな口を開けて、空腹を満たすため 追いまわしている。 ヤニデバは獲物を前にして、一瞬迷った。なぜか分らないが躊躇するのは …
「消えたと言ってもね、あんた、幽霊じゃないんだから、馬鹿な事言いな さんなって!!」 茨城県警水戸中央警察署の鬼頭堅司警部は苛立っていた。 「何度も申し上げているように事実なのです。宜しいですか、お耳が遠くお弱い ようなのでもう一度申し上げます…
―――ばあさんや今日も生きてしまったよ 仏壇に線香を捧げ、手を合わせた。 紫煙は六畳二間の空間を一瞬立ち止まったに過ぎず、少なくない壁穴の 外に陰没して行った。仲間が恋しいのかも知れない。 花火の音があちこちで聞こえていた。仲間の呼び声のように。…
何者かが彼女を狙っていた。 大きな黒いカウボーイハットと、黒いスーツで身を固めた男が、高月美兎を ヒタヒタと追っていた。 夕暮れのせいも相まって顔がよく見えない。 うつむき加減で意識して隠すように、帽子を深く被っているようだった。 一方坊主頭の…
アメリカ合衆国大統領、ケント.アンダーソンは、執務室でその電話をとった。 直前に、日本の高根沢雄一朗総理大臣と電話会談していた。 今度も同様に、着信にはNoritaka Ichizimaが表示されていた。 テレビ電話である。 アンダーソンも高根沢も元は医者であ…
平磯海岸と呼ばれている。 コンビ二の駐車場には、沢山の車が止まっていた。 水戸、土浦ナンバーを中心に、品川、練馬、八王子、千葉、野田、習志野、 宇都宮、群馬など他県の車輌も多く駐車されていた。 海の家は高いからだ、コンビ二で食べ物や飲料を買う…
「が、学長っ!観測衛星どころでは ありませんっ!!」 理工学部長、木下政春が内線電話の向こうで 喚いている。 木下だけではない、男女の悲鳴が怒号が 罵声が、その後方から聞こえて来る。 木下の声よりむしろ大きい。 市島は電話口をこれ以上ない程に、 ぎゅ…
暦の上での 季節は、晩秋に 入ろうとしていた。 相変わらず 異常に気温が高い。 蝉は勿論の事、 蝶、カブト虫、蚊、 蛇、トンボ、蝿、 向日葵など夏に現れる 全ての昆虫、爬虫類、草花が今だ 活動している。 動きを辞める兆候など、ひとつもなかった。 10月…
長い静境を 語るように、 超豪華客船 ミリオンダラー号の 波動は、 真直ぐな軌跡を 後にしていた。 ミリオンダラー号は サンフランシスコ港を出、 一年間で世界一周を旅する。 値段は文字通り百万ドル、日本円にして約一億一千万である。 ―――金持ちは居るも…
エドウィン・E・ オルドリン。 アメリカ合衆国 宇宙飛行士。 人類が初めて月に到達した、 その時のクルーの一人である。アポロ11号。 1969年7月の事であった。 月での活動、 後に多くの体験を語ったが、 就中オルドリンの言葉で 最も興味深いものは、宇宙へ…
アスファルトに 陽炎が乱舞している。 陽炎は渦を巻き、 ある匂いを纏っていた。 それは線香の香りにも似、 哀しくもはかなく 懐かしいものでもあった。 妖気。 これもあちこちに流れていた。 その日は大漁であった。 真鯛を主にして、ヒラメ、カレイ、シロ…
空調が程よく効いていが、 粘っこい体感。 外はおそらく30度を越す はずだ。 ツクツクボウシの 別離のハーモニーは、 吸盤のように 未だに消える気配がない。 底知れぬ不気味な集団となり、季節を止めていた。 夏に現れる生物は、未だ消える気配がないのだ‥…