2007-12-01から1ヶ月間の記事一覧
霧が晴れつつある。 宮村憲兵少尉は気づいた。 田井智音を補足したのは、か細い路地のどこかの商店の小さな倉庫の影だった。 しかし違う。 倉庫どころか、家などひとつもないのだ。 さすがの宮村も眉をピクと動かした。 「宮村少尉、ここは、ここは、・・・…
「アメリカは馬鹿ではない。ルーズベルトは病死となっているが、貴様たち 憲兵を中心にしたスパイが暗殺した事を俺たちは知っている。あの国をこれ以上 追い詰めると人類は滅亡するぞ? トルーマンは講和を申し入れているのだ。 白旗を揚げているのだ。そして…
すべからし。 雲は一度もおちついてはいない。やわらかき鉛が、龍に化けていた。 風雲急を告げる霙まじりの水戸の坂道。 近づいてきた荷車の筵(むしろ)の中から、三人の軍人が出てきた。 引く農夫の格好をした男も、拳銃を田井智音に向けた。 「田井一馬首相…
息が切れる。霙まじりの風が痛い。 心臓が今にも飛び出しそうだ。 死んだほうがましかも知れない・・・ 未知なる鬼が下界で笑っている。 髪の一本一本が抹消神経になっている事を知る。 あるいは恐怖で白くなっているかもしれないが、ちおんは己の顔を鏡で見…