2007-11-01から1ヶ月間の記事一覧

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

欅、ブナ、松、杉などの樹木。 生い茂る草花、岩、石、土。 菊村愛は過去をコンピューターの中で再現するために、界隈に棲む細胞を全て 採取し終えた。 兄、貢とともに捨てられていた茨城県難台山。研究から十年という長い歳月を擁し、いつしか愛も常央大学…

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

空を思い出のスクリーンにする。 様々な形の雲。 父親、母親に似ている雲は、どれか? あれか? おぼろげだ。 喉仏の形、乳房の形。 父よ・・・雷雨の如き強さを教えたまえ。 母よ・・・そこから乳を落として欲しいと願う。 見せてくれ、その顔を・・・。 風! …

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

その石の正体を 付きとめよ。 市島典孝学長 じきじきの 【研究課題】 である。 形が似ている アボガドをヒントに、 直ぐに解明は出来た。 硬さといえ、形色といえ素人目には、 一見石にしか見えない。 石などではなかった。 岩の表面が丸い模様と突起の集ま…

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

本音を言えば 講義どころでは無かった。 山下道則はいつになく 早口で喋っている。 口と心を機用に使い分ける 調子のよい聖職者は居る。 聖職だけではない。社会人、大人 どころか、 子供までが身に纏う。 時としていくつのもの 器用さが無ければ、 生きてい…

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

「水戸南インターまで あと1kです。 左車線に寄って下さい」 カーナビの声が聞こえると、 若い運転手は雑談から離れた。 「予定を少し遅れたが、時間は大丈夫かな?」 バックシートに座る初老の紳士が、 時計を見ながらウィンドウを少し開け、 風を入れた。 …

箱舟が出る港 第二劇 三章 常央大学

―――味噌ラーメン 300円なりか。 相変わらず、安いな。 コインを居れ食券を買う。 万札5枚、【3千円札】が1枚。 財布の中には小銭がない。 背後から肩を叩く物がいて、 太田垣英彦は振り向いた。 「グラウンド以外で会うとは珍しいな。今日の講義は、その後の…

箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

通じない祈りに エドモンド・クライナー・Jは 「Damn it」と 思わず叫んでいた。 画面は真っ黒である。 それはボイジャー1号の 敗北を意味する。 「Is not there the next hand what is ...!!」 握る手の汗。体が熱を帯びて、 頭の中を得体の知れない酔いが疾駆…

箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

誰しもが考えること、 思うこと。 死んだらどうなるのか、 という事。 己が葬式の日までが、 考える時間である。 長いか短いかは、知らない。 死んだら・・・? まだどうなるのか分からない。だが山口博はその途上の中で様々なものを見た。 ひとつ。死ぬと魂…

箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

地球の生命の誕生の謎。 そして水とは何か ? ふたつは同義語だ。 水は実に不思議な物質である。 例えばコップの中の氷をみつめる。 氷は水面に浮かび上がる。 同じ体積の水と氷では、氷の方が軽いから 起こる現象だ。 同じ体積で比較した場合、個体のほうが …

箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

調整池。 それは集中豪雨により 発生する局地的な出水を 一時的に溜める人工池を 言う。 洪水が起こらないように 調整されていることから、 そう呼ばれている。 樺沢取手のそれは、 楕円のお椀型が左右にあって、 その真ん中に半分程の大きさの円形のお椀型…

箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

―――俺は幾つに なったのだろう? 動揺するには、 歳を取り過ぎた。 走る斉藤の頭に、 己に対する疑問が 間接的に突き上げる。 人間として完熟 されてはいないが、 それでも何度も修羅場もくぐり、人生の歴史の到達点が ほぼ見えていた。これから苦労はしまい…