箱舟が出る港 第四章 一節 戦い 五

月世界。
アルフォンサスクレーター、地下20キロ。
スペード型の滑り帯びた黒色の大理石に置かれた真紅のオベリスク
状の建造物は、都市の中心であろう。
高さは二千メートル程であろうか。
それは驚くことに【水】で建造されていた。


天空はどこまでも、不規則な配列の岩石で構成されている。
岩石は生き物ののように、脈打っていた。
グレーのまだら模様が、大小と屹立し、時間によっては、
赤い火のように色を変えていた。
どうやら岩の向こう側に、何らかの熱源があるようだった。
オベリスクの頂点から、天空を真っ直ぐに見つめると、
そこにもスペード型の構造物が、岩石に張り付いていた。
おそらく水の建造物を支える、磁石のような性質を持った鉱物と思われる。



したがって【水】事態の構造に変化が起こり、クラスターの数が減って
いるのかも知れない。
つまり磁気処理をされている、という事だ。
ならば必然的に電気も発生していると考えて、よい。
いずれにしても天と地の二つの力によって、微動だにせず、
水のオベリスクは支えられていた。



水槽に入れられた魚は、鉢があるから出られない。
人間の顔を持ち、残り全てが魚の形状をしたこの空間の生物は、
オベリスクをいとも簡単に通過し、向こう側に移動して行った。
遮る壁など、どこにも無かった。


オベリスクを中心に、都市は五区に分かれていた。
水の色が、それぞれを物語っていた。
赤の海は夏区、紅の海は春区、ブルーの海は秋区、グレーの海は冬区、
そして重水の海は、四区を纏める中心であった。