箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十八

「死なばこの重き大地よ曼珠沙華、か・・・・・」
丸太で作られた小屋の隙間から見える向うは、何かを飲み込んだ
アナコンダの腹で、魂の抵抗を遮断するような構図が幽々と揺れていた。
やはりここはアマゾンの未開地だろうと、高根沢雄一郎総理大臣は、ケント
・アンダーソン合衆国大統領の横顔を見つめ、そう呟いた。
後に縛られた手は、びくともしない。
「・・・・何だね、それは?」
残ったレンズはあまり無い、割れた眼鏡に眸を合わせようとする作業は、
大儀と思われる。
自らのロイド眼鏡が一部でも破損していたら厄介だった。
高根沢にとっては、アナコンダよりも、眼鏡の所存の方が、恐怖であった。
彼岸花だよ? 忘れたか?」
高根沢はケントの眼鏡左右の淵に残った、三角形のレンズ越の青い瞳を
見つめた。



「ああ、園芸植物のアレか。それがどうした?」
ケントの上唇が捲れたような形になり、歯がむき出しそうになるのを感じた
高根沢は、慌てて首を振った。
「作、石寒太、だったかな? 俳句さ。あまりいい雰囲気ではない、と言う事だ」
「思い出したよ、日本では死人花の名があるな? つまらん事を言うな!
縁起でもないぞ、ユウイチロウ!!」
「ま、俳句でも捻ってなきゃ、やってられない心理さ。詩人や俳人を連れて
来るべき光景だと言う事さ。冗談はこれで、辞めよう」
「それがいい。でないと俺は君の眼鏡に頭突を入れる」
アナコンダがゆっくりとジャングルの中に消えて行った。



キャンプデービットを襲撃し多くの海兵隊、SP、CIAの 命を奪った女賊の
仲間の見張りは、左右の丸太越しに大きな尻を揺し、二人に女と言う
物の真の本質を見せつける鋭利な牙であった。
こうして男どもは殺られたのだ。
女体と言う柔らかい安心感、淫靡感が、接触した最初の海兵隊の脳裏
に毒を蒔いたに違いない。
誘われたのであろう。
これでは全滅も尤もだと思わせる、見張りの見事なプロポーションであった。