箱舟が出る港 第四章 二節 戦い 十七

「感覚的に理解が出来る?.....まさか君は心臓に異常を感じたと言うので
は....」
「いえ....? でもどうしてそれを.....」
「実は俺、君の学校に関係している職場で、ガラにもなく講師もしているもん
でね。世間を賑わせている常央大学で、地質学の教鞭をとっている。言うなれ
ば兄貴分さ。心臓の異常の兆候を訴えている人が、実はここの所実に多いんだ。
心臓麻痺で死んだ人間も山ほどいる。15歳から55歳くらいまで、幅広い年代層
に蔓延している。大学の調査では、著しいエネルギーの費消と思われると
言う。過酷な労働や運動などが原因ではないと言う。若い君に話すのもなんだ
が、狂ったように精子を放出している男が多いと言う。でもね....俺が思うに、
それは心理がなせるもの。心臓自体には何ら問題がないとの結果だからね。
感覚的な理解か。心臓に異常は無い事を知っていても、無理に理解してしまう
んだな、異常ありと。どう言う心理だろうか? 滅びの心理だ。種を残そうとす
る、滅びの心理がそうさせているとしか思えない。何かに急がされている気がし
てならんのだよ。それが、どこから来ているのか、精神分析医でも分らないらし
い。思うに精神を病巣として、肉体に攻撃をしかけているんだな。簡単に言えば、
こころ、にウィルスのような者が取り憑いたって感じだな。これはあとで詳しく
説明する。ところで、君は占い、超常現象や伝説など、まぼろしと言うべき物を
信じるタイプかな? これは君の言う創造主の話しにも、結びつくのだが。
ああ、俺か? はは、俺ねぇ・・・確かに胸の痛みはあるよ、彼女もいるさ。
道家という者は、まやかしを寄せ付けない強いハートがあるんだよ。
性の欲望が強くなったら、弱くなるまで空手道の型を演じる。また、百人組み手
もする。すると欲望が消え、痛さは消える。俺だけは殺されても死なないさ。
また、ある特効薬も発見したしね、飲み物だよ。常央医学部で臨床実験に入った
そうだ?」



大きな目が糸筋に替わった。立花のひと懐っこい笑顔であった。
「TVで放送している細木数子の占いは信じません。だって、人間が作ったもの
だもの....あれは事前リーサーチ。デタラメを言ってるのです。僕でも感覚的
でなく現実として分るシナリオのあるショーです。あのオバサンの眼は汚れた
義眼のようですね。だが、受け継がれた伝説、UFOなんかの存在は、感覚的に
信じます。相対的に柳田国男さん、知ってます。伝説は継承されたもので
しょ、違った意味での歴史っスよね? 過去に居ないから、そう感覚的に思うの
かなぁ...。矢追純一さん、近頃TVに出ないスね?あのおじさんもウソつき
です。UFO番組は信じなんったけど、僕はこの目で大洗高校の天体望遠鏡で、
宇宙船を見てしまった。日本から見えない、蝿座の方向からやって来ました。
現実確認です。もっと観測したかったけど、知流さん、ああ、ごめんなさい。
先輩とその後ちょっとトラブルがあって....。こんなとこでいいですか?」
「実に宜しい。知流は弟だね。あの野郎、まだ性根が直ってねえな」
「知ってるんですか、知流さんを?」
「弟の方はワルの評判だけだよ。菰野という同僚が居てね。よく話しに出てく
る。知ってるのは有名な兄貴の方さ。オリンピック候補だからね。話しを本筋
に戻そう。君、時間はあるの?」
「ええ、一時間くらいなら良いって、太田垣監督から言われてます。この後
自主トレの一時間なんスよ」
「じゃ、俺の店で話そう。」
「えっ、だって僕未成年すっよ。....マスコミにでも.....」
「悪いがマスコミは今、君なんか相手にしてないさ。そんな状態じゃないよ。
野球どころではないんだよ、分るだろう?それにあそこは居酒屋ではない。
発掘のための現場だ、さ、行こうぜ」