箱舟が出る港 第五章 一節 霖雨 四

murasameqtaro2007-03-04

「でかいな、こいつは..
モニターからはみ出てしまう。
全体像が見えん。画像を50
パーセントに縮小しよう」
「速度はどの程度
かな ? マーク」
「光速の1000分の1だね。
秒速にして373キロメートル」
「やまぐもの50倍の速度か...
落下地点への影響は?」
「質量がないよ。心、の言う通り。物理的には皆無かと。精神的には未知数」
「それは、ひとまず、よかった、な...」
「スピット画像解析【SPIT=スターバースト・ピクセル・インタリービング・テクニ
ック】終了したよ。どうする?」
「スペクトル分析などの詳細データはいらん。結論を述べてくれたまえ」
「姿形は魚介類のうつぼに似ている。いや、うつぼそのものだ。月の先住者の第
四区に棲む海生生物のたましい、あるいは精神の塊とでも言おうか。実態があっ
て、透明なる不条理。極論を言えば彼らの霊だ、先祖様だな。死後の世界から飛
来したとでも言っておこう。少なくとも敵ではないよ。...今の所は、ね。しかしこ
れは仰天だ。あの世の生物をこうして捉えてしまったよ」
「あの世なら、生物との表現は少しおかしいな。ところで第四区は、鮫族が治め
る、棲家だったね」
「そうだ。我々の祖先とも言える。軍事地区、戦闘屋だな」
「彼らの手下なら、救出かお迎えだろう、攻撃する理由は今のところ無い。何を救
うのか、お迎えするのかは知らないが...。同じパターンで彼らはとうとう、インド洋
にも遺伝子を蒔いたようだ。忌々しいがそれを防ぐ術を人類は知らない。戦っても
勝てはしない魚どもだ」
「高萩なら、巡行日立の発祥の地だな。どうやら因果がありそうだ」
「まあ、な。そろそろ、任務につかなきゃいかんね。肉眼でも敵の宇宙船が見え
る」
「ベルセブブ族...か。エリア51で弱点は見つけはした。生身の人間でも倒せる
事は分ったが、その科学技術の水準までは分っていない、か...そりゃそうだ」
「私達は切り込み隊だよ。また、物差しでもある。さて迎撃体制準備。楽しく行こ
うじゃないか、諸君」




山下道則は興奮を抑えきれず、激昂してしまった。
賛成も反対もないではないか。
反対の挙手などは論外であり、話しにならない。
ここは誰しもが、素直に流れに乗るべき話しなのだ。
濁流であっても、力強い鮭を覚悟しなければならない。
確かに筑波山の火山活動?により、甥が生命の危機に晒された事は遺憾に思う。
だが副学長の井上輝義の態度は頂けない。
卑しくも東日本の雄、常央大学の副学長なのである。言わば公人である。
未曾有の天変地異は、他の大学、研究機関、病院に任せておけばよいのだ。
ましてや世界に名が高い、筑波研究学園都市を擁する地で、起きた事なのだ。
今頃行っても、遅い。
学者は名を揚げる事を好む生き物だ。二番煎じとなろう。
それよりも重きもの、他が知らぬ驚愕すべきデータを、市島学長は流してくれたの
だ。
そして皆の力量を充分知った上で、協力を求めたのだ。
市島学長はメシアを求めたのだ。
これ以上の光栄はあるまい、また男としてこれ以上のやりがいは無いはずだ。
例え将棋の駒であっても。歩兵であったとしても。
ならば、何だ? 女の腐ったような11名の輩だ。
必然であろう。
歴史は井上を始め11名の反対の手を挙げる教授どもを、メシアの一員と認めな
かったのだろう。
そう思う意外、怒りを納める矛先はひとつもない。
山下は破り捨てたメモ帳を丁寧に拾い、太田垣と菰野に、すまなかったと頭を
下げた。
「いいんだ、山下助教授、ぶん殴るにも価値のないヤツラさ」
げらげらと馬鹿笑いした菰野は、山下と太田垣の肩に手をやると、強引に組んだ。
「そうとも、山下君。あんな役に立たぬロートルは要らんよ。ちっぽけな大学と言う
世界の中で、まだ懲りずにも権力を掴もうとしているアナクロニックな老人さ。事の
次第がなんとも理解出来ないと見える。SFじみた現況を解明するのは、そして
戦うのは、俺達、かつての新人類が中心にならねばいかん。科学とは井上のよう
な権威者に追従するものではない、市島学長の言う証拠に基づくものさ。 さ、
笑ってやれよ、バカどもを」
いつの間にか二人とも酒を飲んでいた。
ウィスキーの小瓶である。
不謹慎と思われるが、誰もが非難の声を上げなかった。
それは、市島の言う【危機】がいかに巨大なもので複雑なダンスを踊り、戦慄
を覚えるべき氷の核とでも表現しようか、溶解するためにはむしろ少な過ぎる量
であったのだ。
飲み過ぎと言う表現を使うには、世界中の酒を飲みつくしても、足りなかった。
相対的に言うならば、二人はおよそ常識人なのかも知れない。
「賛同された57名の皆さんありがとう。皆さんには本日付けで大学に退職願いを
提出して頂く。スパイは山中講師が始末してくれたようだが、私はまだ安心して
はいない。だから詳細は追って指示をしよう。家で待ちたまえ。今後の研究は
これより北に移るだろう。かつて大風工業所と呼ばれていた約束の地へと。
プロセスは継続している。そこには霖雨に打たれ長年待っている者がいるだろう。
皆さん、北へ行こうではないか・・・」



「子宮を戻すって...小夜子...?」
「37歳。ママはまだ若いわ。戻れば、いくらでも子供など作れるはずよ」
「小夜子...あなたは、ママを馬鹿にしているの、子供はあなたひとりよ。
例え血の繋がりが無くても。...ママを泣かせるつもり ?...冗談でもそんな事言
わないでよ...」
泣き出しそうなみちるだった。
「ママ、綺麗だよ。だから、私の言う事を少しだけ聞いて。今がチャンスなの...
服を脱いで頂戴、最後のお願いよ」

.....

.....


神々しい裸体の小夜子は何者も抵抗出来ないオーラを、より放出していた。
半ば力づくの思いがあったのだろう、小夜子の顔には不安が過ぎっていた。
やがて、母親のみちるは魔法にかかったように、ころりと下着を脱ぎ捨てた。


「私を抱いて、ママ」
「...こう...?」
みちるは朱に染まった顔を背けながら、小柄な小夜子の体を抱き寄せた。
「そう、ママの摘出された子宮の位地を思い出して、私の子宮に押し付けて...」
「...こう...? あなたを毎日抱いた日、小夜子が幼少の頃以来の格好ね...
腰の位置は高くなったけど....」
向かい会う姿勢のみちるは、少し腰を屈めて、子宮の位地を併せた。
「そう...膣に手を置いてごらん、濡れてる? 昂ぶる?」
「まだよ、小夜子...まだよ...」
みちるは久しぶりの陶酔感を思い出しつつあった。
「触っていい? ママ。恥ずかしいことはないのよ」
「...いいわ、小夜子...」
白魚のような指が、みちるの敏感な部分を優しく愛撫した。
「どう、濡れたね?」
「...あっ、あっ...小夜子、...ああ..気持ちが良くなってきたわ、
濡れてる? 濡れたでしょう?.」
「ええ、ママ。大丈夫よ、これなら元に戻るわ。そのままにしていて。
私のエネルギーの一部をママにあげる。育ててくれた、癒してくれたお礼
だわ。...地球の歴史に介入する事になるけど」
「...何、言ってるの小夜子...パパが帰ってくる。...は、早く頂戴。
ママは...もう...もう...ああ...」