箱舟が出る港 第五章 二節 軍神たち 七

「あの新宿のコンサル、信用出来ないぜ」
「どうしたの? 話しは上手で親切じゃない? 」
「緑地計画の為、工場敷地を回ったろ?」
「ええ?」
「野郎、知らないふりして、煙草の吸殻を排水溝に捨てやがった。ヤツは最後
を歩っていた。防犯用ウェイブカメラが設置されていると知らずに、な」
「ええっ? 知らなかった、それホント?」
「ウソ言ってどうなる。ISO事務局が問題にしている。審査などくそくらえさ、仕事
が遅れてかなわない」
「そうね。全てお金で取得出来るらしいわね・・・」
・・・人とはこんなものだ。


見えない場所では何をしているか、分ったものではない。
ある企業の昼食時、工場総務部の会話であった。
テレビニュースでは、京都議定書云々の話題が流れている。
環境破壊の最大の根源は、カドミウムダイオキシン、フロン、マンガン、クロム、
ジクロロメタンなどの、化学物質などではない。

・・・言うまでも無く、それは戦争である。




咆哮が聞こえた。
合金に包まれたその獣【お転婆ペティ】は、体長はゆうに三メートルは超えて
いるだろう。地球の遺伝子工学は大型グリズリーと、ノコギリ鮫を合体させた。
その戦闘獣は特殊潜水艇【お茶目なキャロル】に格納され、今戦いの投下時期を
待っていた。
太平洋、日付変更線付近、その名をミッドウェイという。
訝しい重力異常地帯に戦艦ミリオンダラーはアンカー【碇】を下ろしていた。


作戦会議室。
「カテコールアルミンの分泌が多いようだ。緊張するね。あっち側の私のホクロ
はないかも知らんよ」
ディル副艦長が眉間に皺を寄せZ地図の展開を促した。
合衆国海軍小将、かつて空母ミッドウェーの艦長だった男である。
プンという音も短く、スクリーンには海底2600メートルの漸深海帯の姿が流れて
いる。
マリンスノーが淡雪のように降る化学合成生態系の領域は、音、波動、
あるいは深海魚たちのコミニュケーションで充満していると思われ、ここに棲む
生物は当然、何らかの法則に基づき、生活していると思われる。
即ち、海底はもうひとつの宇宙なのだ。
太陽の光りが届かない暗黒の世界の中に、投光機を内蔵したシーズ・
バンカーバスターが海底の岩石の上にひっそりと横たわっていた。
一時間前にミリオンダラー号より投下された戦術核爆弾である。
作戦室のスイッチを押せば、先端のダイヤモンドドリルが回り、岩礁の中を
500メートルを進み、任意点を探した時、二回目のスイッチを入れれば爆発する。
「軍事宇宙船やまぐも未確認飛行物体と遭遇。現在の所、敵ではないとの見解。
ロナルド・レーガン及びビル・クリントン月面に着陸しました。ランドサット、
護衛宇宙駆逐艦三隻、やまぐもとドッキング完了。一番近い多元宇宙の動向は、
静観のようです」