箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 二

murasameqtaro2007-04-30

「世界はこれから、
激動の時代に入る。
日本は間違って
しもうたようじゃのう。
あの2.26事件が
分岐点だったとワシは思う。
確かに東北の農民をはじめ皆、
貧しかった。
だが達磨蔵相などを暗殺しても、
なんの解決にもならん。
ならんどころか全体主義への
試金石になってしもうた。つまらん事をしたもんだ。歴史が悪い方へと
変ってしもうた。陸軍主導の体制になってしもうた。だがのう、ワシは絶対に
歴史などに飲み込まれやせん。日本が勝とうが負けようがどうでもいい。
勝てば正しい方向へと国を相手に導く戦いをする。負けても同じよ。
間違ったことは許さん。人は平等でならなきゃいかん。幸せにもならなきゃ
いかん。理想の里を必ず作ってやる」
「おい、おい、いやしくも朝潮駆逐艦の艦長就任前の帝国軍人が、
そんな事を大声で言うなよ。言うなら小さく言え。共産主義者でもないのに、
赤といわれるぜ。ま・・・何かが狂っている事は確かだ。オラも人の心の底の
底を読んでみてえ。そんな機械をいずれ作ってみてえ。
平和に役だててえ。同じ惑星に住みながら、不思議な分布だもんな。
貧富の差、肌の色・・・白、黒、黄か。言葉も違うし宗教もままちだ。
これでは争いがねえほうがおかしい。戦え、殺し合えという構図を
神は気まぐれに作ったのかもしんねえなあ。邪神創造の宇宙ってとこかい。
なら、神を正しめるか」
幸吉も声も小さくはない。いい季節だ。人が少なくない。ふたりは周囲からの
強い目を感じた。
 「さて、ここは高くてこええから、けえろうか」
源吾が腰を上げた。ふたりとも柔道着を纏っている。黒帯が風に揺れた。
 「何なら男体峰へ行って見るか。山本長官の顔が崩れながら西へ行くぞ、
追うか」
幸吉は周囲からの目を、刀のような目で返した。
 「いや、やめておく・・・男体、女体の双峰。
どっちかが雲のように崩れたらどうなるかの?」 
「半分なら奇形。全部なら、そりゃ、ま、アレが出来ない。つまり子供も生まれ
ないべ。まここでは変な事は言うなよ、周りがうるせえ」





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お勧め
小松左京原作
ウィルスと核により、滅亡寸前の地球だったが・・・
チリ共和国海軍の協力を受けた潜水艦と氷河。
オットセイの鳴き声とオリビアハッセイ演技の構図。
ここは影響を受けました。
イギリス潜水艦ネレイド号の決断が秀逸。
主題歌、ジャニスイアンの、ユーアーラブも
哀愁が一杯。

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