箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 三

murasameqtaro2007-05-01

 帰り道の岩をまたぐ二人に、
人がぶつかった。
宮司の装束を身につけている。 
宮司が倒れた。
 「アレは、アレは!?」
獰猛な犬のように
地面を這っている。
「すまん、すまん。
アレとはなんぞな?」
大柄な源吾が大丈夫かと続け、
宮司の手をとり、
立ち上がるのを助けた。
「石ですっ、石は、石は!?」
必死の形相で源吾の手をはねのけ腰を屈めた宮司は、近眼よろしく地に目を
貼り付けさせるように石とかを探している。 
 源吾と幸吉はポカンと顔を見合わせた。
「石ならそのへんに、いくらでも転がっているべよ」
腰を沈めた幸吉が、これかと最初に見た石ころを拾い差し出した。
 「違う、私が転ぶ前握っていたものです!!」
「うん? アレとは違うのかィ?」
 源吾はガマ岩の下に落ちている赤銅色の石ころを指した。
 独特なオーラを放っている。異質な色であった。筑波山の岩や石は皆同じような
色形なのだ。
 石というより鉄のような質感が感じられる。
 どれ、と源吾がガマ岩に歩み寄った。 
 「やめなさい、 私に返してくれ! 死にたくなかったらそれに触るな!!」
やまびこが二人の心の隅まで入り込んだ。子供の顔をもったそれは、
口が耳までさけているような、奇怪な叫びであった。
 「何がどうしたと言うんだい? 宮司さんよ?」
一目散にその石を取った宮司は大切そうに胸に抱き、膝をついた。
 登山着姿の若い男がそれを見ていた。男は源吾と幸吉に目礼をすると、
宮司に近づき手からこぼれた赤銅を食い入るように見つめた。
 「・・・それはウラン鉱のようですね。良かったら私によく見せて
くれませんか?」
 帽子を脱いだ若者は、秋田鉱専の高根沢政春ですと、三人に挨拶をした。