箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 六 

murasameqtaro2007-05-05

「そうかい、そうかい。
ま、好きなだけ泊まれば
いいよ」
意にかえさない態度で、
縁側で軍人将棋を打っている
田井一馬が、
高根沢をにこりと見上げた。
「ここが、こうなれば・・・
ああっ、やはりダメだっぺ!
こりゃ始めれば戦争は負けるな」
「お客のようだから、俺は帰るべ。
いくらやっても一馬少将、貴方の負けですよ」
菊地喜一が勝ち誇ったように、笑った。
 すれ違う知流源吾と山中幸吉に、またなと声をかけ、政春をちらと見、
縁側を後にした。
憲兵もヒマなものよ。毎日一時間ほど、将棋を打ちに来る」
着流し姿で立った一馬は、菊池を見送った。
「どれ、挨拶が遅れましてすまん。この家の当主、元帝国海軍少将
田井一馬です。巡洋戦艦筑波の副艦長でした。ま、歳も歳だが、日露戦争
手をやられてしまってな」
片腕がない。左の着物の裾は縁側に吹く風に誘われ、おしゃべりを始めた
ように、凪いでいる。
 白い顎ヒゲが長い数馬は目を細め若い旅人を見つめた。 
「秋田鉱山専門学校【現秋田大学】の高根沢政春です。ごやっかいに
なります」
「ふむ。何を言っているか分らんような、出羽訛りがないな? こっち、常陸
東京へもけっこう来られるのかな?」
「祖は佐竹藩の下級武士でした。その意味から、常陸の血を引いているせいか
も知れません。また専攻する学問の性質から、諸国を旅する機会が多いもので」
「む。佐竹公の御用人か。常陸も北の方だね。角館あたりは今頃、桜が
満開じゃな」
おいと手を二、三度一馬は手を打った。
知流源吾が風呂敷を解き、中から鉄アレイに似た赤銅色の石を取り出した。
「これを探しに筑波山にやって来申したようです」
「どれ?」
桐の円卓に置かれたものを一馬は手にとり、見つめた。
「ううむ・・・これはただの石ではないな、源吾どん?この肌触りは、まるで生
きているようじゃの」
一馬は唸った。
「流石ですな。田井海軍参謀少将。今までの地球の歴史が凝縮されてます」
「どういう事かい、源吾どん」
「こん石ん中、でかいほうには数知れないトーキー映画が詰まっているという事
ですたい」
「人間の脳みそのようなもんか。とても信じられんが己が体験の記憶を湛えた」
「説明せずとも充分ご理解頂き、感謝し申す。夕暮れが近づき申した。
田井村臼井付近でそん中は見えなくなり申したが、明日にでも陽光に浴びさせて
見て下さい。室町後期の歴史までワシたちは見ております。書物通りであり
申す。もっとも顔は違い申すが、近くなら常陸小田城に立てこもった楠木公の顔
まで見申した。神皇正統記の執筆中のようじゃった」
襖が開いてほっそりとした若い女が入ってきた。
「孫の智音【ちおん】です。さ、酒と参ろう。さぞかしくたびれた事
じゃろうて、のう高根沢くんとやら」
続いてこれも四十代くらいのほっそりとした似た顔が現れた。
「そしてコレが娘の美音【みおん】です。余談じゃが婿どのは満州
戦死しての」
一馬は広い部屋に飾ってある一番新しい肖像を見上げた。
「遠路はるばるご苦労さんでした、娘と孫でございます」
美音がとっくりを五つ円卓に置くと、智音が山菜を中心にしたつまみを並べた。
「うん、五つ?・・・・ ああ・・・? お主は筑波山神社
井上輝和宮司ではないか?」
 巨体の源吾と横幅が広い山中幸吉の後ろに控えた、青ざめた顔を認めた。
「はい。女体峰にこの石が飛んで来たのです。鍋島僧侶の所へ持って行こうと
したのですが」














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