箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 十二

murasameqtaro2007-05-14

三葉虫
・・・しかし、
海は恐怖の世界だっぺ。
大洗を見た事があるか?
いつだった落ち着いて
いない。
洪水を起こしても
川の流れなどは
可愛いもんだ。
海軍にとっても波は敵だな。
垂直方面への
あのうねり。太古も今も変らん。
大波、うねり、寄せ波、波が動き出すと、
数千キロを旅すると兵学校で
教わったな。大波の速さは時速800キロ。ゼロ戦も敵わない。力も強いべ」
川に小枝を投げた幸吉は、ため息をついた。
 「あん、瀬戸内海の砕ける波。推測じゃが多分、1センチ平方あたり、
90キログラム程度の圧力がある事じゃろう。約 1.2メートル。160キロの
幅に沿って打ち寄せる波は、広島市どころか、中国地方一帯にまる一日の動力を
提供でき申すはず。また、海は彫刻家でもあり申す。特に三陸海岸の形状
などは人では彫れん。そんなかで揉まれた生命と言う者は、環境に適応し優れた
創造力を持ち、おい達が教わった姿と全く違っていた。素晴らしい知性があった
ようじゃのう。三葉虫ありき。藻の配列を何と見たか? 文明の証は法則性よ。
幾何学的な配列じゃった。即ち三葉虫の見事な居住区じゃった。
・・・ワシは愕然としちょる・・・教わった歴史は何の役にもたた
なかった・・・」
 「誰だって、愕然とするべ・・・。地球生誕から、滅亡までの歴史が、
この石の中にあるのだからな。もっとも未来は画像が乱れて混沌としていた。
天候のせいだっぺか? この石が病気を患ったとでも言うのか? だがな、もっと
いい条件で見られる日があると思う・・・。見てくれ、なんとかしろ
と言う声が俺にも聞こえた。誰も居なかった地球。いつとも知れない太古に
生命は現れた。何故、どうしてという答えは、学校でも教えてくれない。
誰も分らんのだよ。20億年前とも15億年前ともの推測はある。それが、それが
・・・実は30億年前だった。そんな太古にあの不思議な三角の仮面の男が
現れた・・・」
 「思うに、あの仮面は細胞じゃよ。ある大きな細胞じゃ。その細胞が再生する
能力を得た。ここから進化が始まったのじゃが・・・この石はそこから一部始終を
見ていたのじゃよ」
 月光が薄い雲に切り取られ、あるべき輪郭を中々見せない。
「明日は晴れる。夜明けから、この石の中を見てみようじゃないか。続きが
早く見たい。・・・そうだな、結果次第では、俺も海軍を辞めるよ。この石と
関わったのは、間違いなく偶然ではあるまいよ・・・」



 
















○持っているDV○
松本清張原作。
スマップの仲居くん主演で数年前テレビドラマ
にもなりましたが、より、リアリティある内容です。
丹波哲郎さんの演技が見事です。
日本映画史上、名作のひとつと言われているようです。
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