箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 十三

murasameqtaro2007-05-15

 翌朝、知流源吾と、
山中幸吉は、始発の
筑波線に乗った。
常陸北条駅から、土浦駅
経由して、常磐線に乗り換え、
日立市まで行く決意をしたのであった。
常陸北条駅で弁当を二つ買い、
空を見上げた源吾は、
曇りの天空にがっかりしたように、
幸吉に呟いた。
 「もう直ぐ陽が登る時間たい。だがの、今日は雨が降るようじゃ。
夕べの月夜がウソのようじゃのう」
 「ま、焦る事はねえ。陽はいつかは登る。続きを見てえのは、オラも同じよ」
風呂敷に大切に包んだ二つの楕円から成る石は、列車のリズムに合わせる事
なく、ずしりと源吾の膝の上にあった。
 「おまん、体は大丈夫か?」 
「ああ、今の所なんともねえよ。夕べは三升飲んだが、こっちもなんともねえ。
肝臓は石より硬いよ」
 「ワシもじゃ、日立の助川まで何時間かかるかの?」
「助川駅まで4時間、大雄院病院までそこから、30分見れば大丈夫だっぺ」
図体の大きな二人は四人座れる座席を占領している。
まだ始発電車なので空いてはいる。
 天秤棒を荷台に置いた老人が斜め前で、風呂敷の包みを開けている。
桶が出て来て、表面から小さな水しぶきが上がった。
 「金魚屋じゃな・・・もう直ぐ夏じゃのう。まだ平和なものだ、この日本も・・・」 
 「米内光政の内はまだいい。政財界と協調した親英米派の内閣だからな。
だが浅間丸の事件を発端に世論は反英に傾いている。米内閣下はどう乗り切る
気か? 問題は東条英機陸相だな。いっその事・・・」
 「冗談はやめんかい。あやつだけが悪ではなか。暗殺しようとしても、失敗に
終わるにきまっちょる。ワシ達は未来を見てしまったのではなかったのかい?
2007年の夏には・・・」
「冗談だよ。それを今は言うな。霖雨のように、今以後は絵が乱れた未来だ。
はっきりとは見えはしなかった。その石にある時期、何かが起こったのだと、俺は
思う。例えば電波障害が発生するような何かが」
 「いずれにせよ、陽が登ればはっきりとするだろう。梅雨が近か・・・。
間に合えばよいが」
 やがて電車は土浦駅の一番線に着いた。