箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 十八

murasameqtaro2007-05-21

「取り込み中というより、
これでは強盗じゃなかとね? 
うん、おはんら?」
狭い列車に長時間乗ったせいか、
源吾は大きく背伸びし、
あ〜と長いアクビが始まった。
アクビはやはり、
伝染するようだ。
 幸吉もあ〜と続けた。
 クロツネまでが、あ〜と、
体を反らせ、腰をトントンと叩いている。
 「あ〜〜〜〜〜〜〜〜あっ、アホウがっ!!」
アクビの終わった源吾の太い腕が、
坊主頭の兄貴各の首をグイと掴んだ。
 「ふん? 威張っていても、根性のない頚骨たい。折って差し上げ申すか?」
兄貴各は宙に浮き、足をバタバタとさせ、必死でもがいている。
 「ぎゃ・・・・ぎゃろうども、やっぢめぇ・・・・」
首を捕まれ、体を持ち上げられた兄貴各であるが、メンツがあるらしい。
 白目がちになりつつあるも、手足が源吾の体を叩いている。
 「ややややや、てめえら、どっ、どこのモンだっ!? 」
手下の片目のない着物姿が日本刀を構えた。
 「孫六ものかぃ。そんな名刀をおめぇが使えるのかぃ?」
山中は言うと同時に腰を沈ませ、着物の男の足を払った。
 男は宙に舞い、皆藤院長の座るイスの角に、頭をいやと言うほどぶつけ、
倒れた。
 「さて、後の三人の兄さん方はどうするね?」
クロツネが合気道の構えを取った。
 「貴方がたは海軍の方ですね? いけません。こんなヤクザ者を相手にしては。
任侠道に反する世の中の屑ですよ」
 「そうでありますか、じゃこいつだけで終わりにします」
七つボタンが光り、クロツネが、大柄な岩のような男の手首を取るとすぐさま
捻り、背後を取った。
 「いてて、辞めろ!! 手首が折れる」
 「仕方ありませんな。後は私に任せてください」
皆藤院長が白衣を揺らし、立ち上がった。
 残った二人の眼をじっと見つめた。
 二人も虚勢をはって睨み返す。
 時間は直ぐに来た。無頼の徒の様子がおかしい。ふらふらと揺れている。
 「・・・おい・・・おい?・・・辰公・・・揺れねえか・・・?」
「ヤツの眼・・・を・・・見るな・・・催眠術かも・・・知れねえ・・・」
 見るなという物の、肉親の死に顔を見なければならないような、強力な
懐かしい渦が二人の頭の中をぐるぐると回った。
 「・・・だ、め・・・だ」
日本刀が落ち、やがて二人はドゥと床に倒れた。
 粗末な板の間が、ギシという音を残して。