箱舟が出る港 第七章 一節 駆逐艦大風 知流源吾 十七
「だからよう、
心理学の院長さんよ。
俺の舎弟が
あんなになっちまったのは、
山に関係あるんだぜ。
てめぇのトコは対応が
全くなってねえな。
ゼニで片付けてやろうと、
こっちは優しく提案してるんだよ、
なあ?」
「山と病院は関係ありませんよ」
「何をぬかしやがる!!
いいか? 何度も言ってるように、ここは鉱山病院だ。炭鉱の中には毒がある。
入れば病気にかかる事を覚悟するって事よ。それをココが治すと言うが、
一向に治らねえな。山と病院は一心同体だ。関係がねえとは言わせねえ!」
「貴方の舎弟とやらは、何度検査しても健康そのものですな。異常など
ありません。ゆすりはこれ位にしていい加減帰ってくれませんか? でないと、
警察を呼ぶことになりますよ」
「お? またそう出たか。なるほどな。おめえ、うちの親分の力を知らねえよう
だな。田舎警察くらい、指一本で動かせるのよ、ケッ」
「それは凄いね、ふっふ・・・。腐ったヤツラよ」
「な、な? なんていい様だこの野郎!! おう? 皆藤先生よ。こうなりゃ
仕方がねえ。金目のものを貰って行くしかねえな。後悔するなよ。おうっ、
野郎ども、片っ端から、ぶん取れ!! 邪魔するヤツラはぶった切れっ!
こんな病院ぶち壊してくれる!! 」
坊主頭で目が窪んだ、カイゼルヒゲなとをはやしたデブが、ジロリ
と皆藤院長を睨んだ。
人相の良くない手下が五、六人いる。全員が日本刀を抜いた。
その時であった。
「今、取り込んでますので、どうか後に、後にして下さい!!」
女の悲鳴に近い声が聞こえた。
「いや、誰が来てるか知らんがかまわんよ。こっちも急ぎの用なんでね」
知流源吾を先頭に、山中、そして大林が院長室に強引に入りこんだ。
「ん? 何だ、てめえらは? 今看護婦が、取り込み中だと言ったろ? 」
坊主頭が振り返り、三人を恫喝した。