箱舟が出る港 第七章 二節 激動の波頭 四

murasameqtaro2007-06-04

「欧米のような
帝国主義はいけません。
侵略は絶対してはいけない
行為なのです。今の日本が
侵略されると思いますか?
されませんな。
世界有数の軍事力を持つ日本。
何もしなければ不安はないのです。
確かに東北の農村を中心に、
貧しい人は多い。
貧しいから広大な満州などを
侵略し、富を得るなどもっての他。
反動があるではありませんか。欧米の真似をしてはいけません。
田井閣下の狙いは、購買にあったのです」
 「購買とは?」
 「他国の土地を購入する事です。合法的な領土の拡張です。
血の流れない国土の拡張です。中国にしろ東南アジア諸国にしろ、後進国
土地が余っている。資源の利用技術も拙い」
 「そう簡単に他国が領土を売るかな?」
猜疑心の強い近衛の目が光った。
 「売りますな。ただし今なら、とつけ加えましょう。中国としても
多くの血を流し、劣勢な戦争を続けるより、選択肢としては魅力があるはず
です。現住民も圧政から逃れ、土地を与えられるのですからね。反感は薄いと
思います。日本には、それほどの国力があるのです」
 「国力はアジア一だが、購入原資はどう捻出する? 莫大な金銭が
かかると思うがね」
 「自衛の為の軍備だけでよろしいではありませんか。侵略の為の軍備は必要
ではありません。戦艦長門級の軍艦を二隻ほど今後作らねば、東南アジアの
小島など二、三島ゆうに買えます。軍縮すれば問題はありません」
 「田井閣下の持論か・・・」
 「おおせの通りです。言葉は悪いですが、私には経済侵略と思います。
だが軍事侵略より人間的ではありませんか。殺し合いは獣だけでよい。人間には
理性があるのです」
 「・・・軍部は反対するだろうね。飢えた野獣と化してしまった」
「田井閣下に一度お会いになられたらいかがですか? 軍部にも信奉者が
数多くおります」
 「・・・考えておこう。短い夏になりそうだな・・・」