箱舟が出る港 第七章 二節 激動の波頭 五

murasameqtaro2007-07-05

幾つもの発見があった。
世の中の常識を逸脱した
天変地異の現象であったが、
地球レベルの考え方を
180度改めて見れば、至って
自然の法則がなせる技なの
かも知れないと、三人は無理に納得しようと、
極力努めるようにした。
時間が経過するにつれ、争いごとや、妬み、
恨みなど、人間の醜い部分が
馬鹿馬鹿しく思われ、ある意味で三人の心は進化したと言ってよい。
知流源吾、山中幸吉、大林照恒の三人は、茨城県北部高萩町に近い日立鉱山
の地下20メートルまで掘り下げた場所で、焼酎を飲んでいる。
今までにない感触が知流の持つスコップに伝わった。ガチンと音がして、
砲塔から発射されるミサイルのような勢いで、青い光が地下を照らした。
土や石塊を手で掻き分けると、ぽっかりと青い穴が空いていた。
薄氷を踏む思いでそっと手を置いたが、青い穴の中に手は入らない。
遮断している物質があったのだ。
例えば望遠鏡は、遠くの風景を目の前に演出するが、レンズに手を置いても、
見えるものに触れない。その感触に似ていた。似ていたがレンズなどではない。
今日発見したその光景は、三人の魂を抜くのに十分過ぎる程の、畏怖に値す
る神々しくも妖しいものだった。
カンテラの光が妖々と直径30センチほどの鉄板を照らしていた。その下には
途方もない光景が隠され、広がっていたのだ。
「鋼鉄のガラスで作られたように、硬か。恐らくダイヤモンドでも傷はつないだ
ろうな・・・」
ため息を吐いた源吾は、一気に焼酎を飲み干した。
「しかも薄く恐ろしく透明な物質だべ。一見なにも無いと錯覚する・・・」
そう言う山中は、何度その上に乗り、ジャンプしたか、ケリを入れたか分から
ない。
冷静な源吾までも力まかせに岩を持ち上げ叩きつけたが、傷などどこにもつか
ない。
鉄板で隠された下には、とてつもなく透明で硬い物質が、外界を遮断している。
岩や土の中にぽっかりと空いた穴。穴に乗っても向こう側には落ちない。
その物質を通して、向こう側が覗けるだけなのだ。
「宇宙に出て地球を見たら、恐らくあんな姿と察し申します」
クロツネこと、大林海軍曹長は次の言葉を発しようとしたが、源吾の口が開きか
けたのを見て、口を閉じた。
リーダーである知流に言わせるべき、結論である。
隠した鉄板の隙間から、青い光が微かに漏れている。
「あれは確かにワシ達が見ている月たい。そして隣で青く浮かんでいる星は、
地球に間違いなかとよ・・・つまり違う次元に存在する月が地球が宇宙が・・・・
この下に続いている。なあ・・・?もうひとつの地球の歴史はどんな時を刻んでいる
のじゃろうかのう? どちらが本当の地球なのか、こん地球は何なのか・・・」
隣接する平行宇宙が、日立鉱山の地下に隠されていた。
こっち側の宇宙にどんな意味を齎すのかと、源吾はめまぐるしく頭を回転させた。
それを察したように、山中が口を開いた。
「何かを我々にさせようとしているのだと思う。いや我々だけじゃあるめえよ。
高根沢政春くん、田井数馬閣下、濃人権市くんとやら、皆藤院長、そしておそらく
まだまだ人がやってくる。必要としている。謎を解く人物がやがてきっと現れる
はずだべ。それは源吾どん、あんたかも知れない。あの石ころはやはりこっち側で
何かをして欲しくて、願いを込めて、向こうからやって来たんだ・・・。とうとう
俺たちをここまで導いたんだよ・・・」