箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

murasameqtaro2007-08-30

それが人であれ、動物であれ、
植物であれ星に祈りを捧げた者は、
いかほどの
数になるだろうか。
祈りは幸せか、あるいは不幸か?
人間界では様々な思惑が充満し、
がんじ絡めになった細糸を、
ひとりで解こうと
もがく時がある。
ひとりでは生きられない葛藤を
知りながらも、
つい、安らかなわが身を願い、
また他人の不幸を訴えたりも、する。
一本の木を梳る。
彫る者は、慈悲深い仏像を、全霊を持ち作り上げたのだろう。
もしも祈りという名のエネルギーが、神社仏閣に神々しい命を吹き込むものとし
たならば、祈られた星はどうなのか?
宿った命は善か悪か?




お天等様は必ず見ている。
貧農の祖を持つ樺沢工業所東京統括本部の長谷部専務は、グループ企業である
群馬県は、樺沢館林工場にいた。
環境担当執行専務。
品質、環境ISOを取得していないのは、館林工場だけであり、そのテコ入れに
出張していた。
専務自ら出張し陣頭指揮を執る事は、中企業ならではのトップダウン方式という
旧態的な経営手法であり、技術力が卓越しているにも関わらず、下の意見を取
り入れない樺沢グループがもうひとつ大きく脱皮できない大きな要因のひとつで
あるようだ。
「末端まで意見を聞こうじゃないか」
時代は移り、総帥の樺沢至は十分にそのあたりを理解し、ダウンストリームへ
の変換を常々模索していたが、何を起因としてか、弟が精神を病んでしまい、
血の繋がる相談相手がいないというジレンマに陥っていた。
労組もない同族会社であるがゆえ、腹心の部下という表現はおかしいが、樺沢至
にとっては本音を言えば弟よりも、また常務の佐々木よりも信頼出来る参謀格で
あった。
受注先は陽光を浴びていた。
自動車業界は勝ち組と負け組みがはっきりとし、片や一方を受注先とする樺沢
館林は日の出の勢いであった。
樺沢館林は他の樺沢グループとは異なる事業展開をしていた。
OA機器の製造を主力とする日本を代表とする製造業の協力会社ではあるが、
自動車業界、パチンコ業界の協力会社として樺沢館林が提携したのは、長谷部
の力による。
連結決算にして152億円。樺沢グループ九社の合計のうち半分の売上高を誇っ
ていた。
「つまらない世界基準が出てきたもんだ。馬鹿馬鹿しいがな。今の地球に循環型
リサイクル世界など構築出来るはずがねえ。金儲けの基準だ。考えた野郎達は
今頃笑っている事だろうよ。地球環境を憂うならまず戦争をやめるべき
だがな」
慣れない化学式を赤のボールペンでチェックしつぶやいた。
眼鏡を外し両方のこめかみを押すと、ぼんやりと人影が見えた。
「あれ? 藤原工場長。てめえ、いつからいやがったんだい?」
「五分前からです・・・」
髪を七三に分けた公務員のような小柄な男が直立不動で立っていた。
「で、用件は何んだい? つまらん用だったらはったおすぞ」
「取手が大騒ぎのようです。山口博君が・・・」