箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

murasameqtaro2007-09-18

二本のピンク色で
らせん階段のような
チューブ状のものが、
交差しながら山口博
の頭上にふうと現れた。
ボイジャー1号と、
敵対するアンノン
【不明物体】は、
今だ膠着状態にある。
互いに計りしれない強力な破壊光線を照射しているが、間に存在する透明な
遮断機を壊す事が出来ない。
ボイジャーの司令塔である心【ハート】マイナス1号は言う。
―――直径五ミリの穴を探せ!!
宇宙という果てしなき大空間に空いた、たった、たった五ミリの穴。
探す事はどんなに時間を費やしても無駄のようだ。広大な砂漠の中で、一粒
の砂金を探すほうがいとも簡単である。が、ボイジャーにしろ、アンノン
物体にしろ、現在いる位置の近くにそれはあるようだった。
例えばボイジャーが、この位置から地球めがけて、真っ直ぐの軌道で荷電粒子
ビームで攻撃したとすれば、見事にミッドウェイ島に届くはずである。
ミッドウェイ島上空158億キロメートルの遥か宇宙には、盾のようなヘリオポーズ
が存在していたのだ。
なぜそこから先には容易に行けないのか?
五ミリの穴だけが、なぜ空いたのか?
そこを抜けて互いのテリトリーをになぜ侵略しようとするのか?
これこそが戦いの根源にある理由であった。
「まだ時間がかかるようですね」
燐の炎に包まれた鍋島慈形は頭上を指し「あの中におられる人々は目標位置を
知ってます」
と一層燃えた手を突き上げ、山口に上を見るように促した。
「な・・・なんですか、あれは・・・?」
チューブ状のらせんの中に大勢の人間らしき物が見える。
「生命再生工場への道ですよ。輪廻転生する場所です。そこを支配する王が苦戦
を強いられているんですな。地上界でいう閻魔大王です。まず霊界がふたつの
敵対勢力から攻撃を受けているのです。そしてやがて王は火車を下界に送り助け
を求めるでしょう。つまり、死人がこれから沢山出るという事です。戦力が実
に足りない。霊界が滅びたらこの宇宙は消滅します。王にとっても苦渋の決断
だったようですな」
「すると私もあの中にいたのですか?」
「いませんよ。修行中の偶然だった。肉体を分離し南十字星まで飛ぶ道すがら、
今死ななくともよいあなたを、チューブに入る前に見つけたのです。何しろ
あなたの先祖は我が慈門寺に眠っている。少なからず私と縁がある方なのです。
輪廻転生する事なく永久の眠りの審判が出ましてね。ある意味で幸せかも知れ
ませんね・・・云わば夢を見ない睡眠状態ですから」
「祖父母の名を知ってますか?」
「義郎、茂子・・・御爺さんはかつて空母赤城に載っていましたね。
ミッドウェイで戦死。あなたは祖父の顔を知らない。お婆さんは六年前癌で
死亡・・・」
「・・・・」
山口の耳に常陸地方の子守唄が流れた気がした。
「ごらんなさい、あのチューブ状の道を。上って行く、つまり死んだ人間は実
に多い。だが一方のチューブの中、再生され下界に転生される細胞はひとつも
ない。下界で言う閻魔大王は、善悪を無視し審判する事なく、無条件で神に
再生しようと決断したのです。苦渋のね」
「・・・すると私は、どうなるのでしょうか?」
【H.U.Y(博 ゆか 洋子)いつまでもいっしょに】
浜辺に綴ったイニシャルと約束。はかなく泡沫の夢の如く約束を思い出にして
よかったか?
「今はその時期ではない・・・」
「いずれ本当に死ぬと・・・軍神となり、何者かと戦うと言うのですか?」
「・・・想像にお任せ致します。例外として死なない人間もいる。生身の体で、
地上で戦う運命の者も多いだろう・・・」
南十字星へ行くとおっしゃったが、何かあるのでしょうか?」
「蝿座が近くにあるものでね。偵察がてら文明を見てこようと思うのです」
「・・・鍋島さん・・・あなたはいったい何者なんですか?」
「いい加減なただの坊主ですよ。そら、敵が穴を見つけたようです。ボイジャー
側は戦闘グリズリーが対応するようですね」