箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

murasameqtaro2007-09-20

「やはり解らないか・・・」
チワワの毛並みが美しい。
びざにおいた撫でる手には、
老班が濃い。
学校法人那珂川学園
理事長高村一蔵であった。
「あの地帯には、産廃物を
埋めているという良からぬ
噂があります。
あるいはそれがスキャンの
障害になっているのかも知れませんな」
少しこぼれた煙草の灰を、几帳面にハンカチで拭いた。
学校法人那珂川学園常央大学学長、市島典孝である。
「ところで誰を選んでくれましたか?」
「招聘したR大学のはみ出し講師、山下道則君、体育学部助手の立花竜一君、
最後に彼には後々理由は話すつもりですが、元航空自衛隊の優秀なパイロ
ト、事務長の伏見実君です」
「・・・そうか」
「はい。三名とも私利私欲がない。ただ、山下君は学問に関しては貪欲です。
一部を任せましたが、全貌を欲する時が来るかも知れませんね・・・任せた
仕事は彼にしか解けないでしょう。このあたり大いに悩みましたが・・・」
「・・・時間はどの程度残ってます?」
高根沢総理筋からの情報によりますと10月が激動の時期です」
「後五ヶ月か・・・急がねばならんね・・・」
「はい」
気象衛星やまぐものスキャンは無理か。めくらうちで掘るしかないかな」
「巡航日立にも心【ネオハート】の創造を急がせてはいます。あとひとつき
ほど時間を下さいませんか?」
「すでに突然変異の核となる異次元アミノ酸をばら撒かれた。従兄弟である
駆逐艦大風の生き残り磯前五平が倒れたらしいとの警備課からの報告があり
ました。ひと月は少し長いよね・・・」
「・・・では半月では? 全力を尽くします。無理であれば、ダウンジング
立花君にお願いしましょう。彼はあの鍋島の友人ですから、なんとか掘り当て
るでしょう」
「ならば鍋島に最初から依頼をしたらいかがかな?」
「・・・科学を否定する事にまだ少し抵抗が・・・私個人としては出来たら
あのような寺とも神社とも知れぬ場所に棲み付く、霊力なるものに頼りたくは
ないのが本音なのです。立花君は霊能者ではなく、鋭い勘の持ち主です。鍋島
某は保険にしたいと思います」
「・・・ふむ。命取りにならなければいいが・・・まあいいだろう。全面的
に君に任せた以上はね。あの大風を掘り出せば、現代の箱舟が建造出来よう。
いや、今や地球の癌細胞となった我々人間が、神に勝利する事も可能かも知れ
ない・・・神と言っても邪神だからね」
「人は本来は悪ではありませんからね。邪神との和解も可能かも知れませんね」
「・・・それはどうかな?邪神は邪神でしかない。我々の真の創造者は他に
いるではないか・・・」
チワワが高村の手を離れ、尾を振っていた。