箱舟が出る港 第二劇 四章 分岐嶺

―――でも・・・なあ?


男は迷っていた。
誰かに聞いていた、いいのかと。
快感が体を突き抜ける。
出してしまえばいつものように問題は解決する。
通り雨が欲しい。
男はカーテンを広げ外を見回したが、むんとする熱気が街を包んで
いた。


大きなペニスと黒き穴・・膣。
卑猥な歌麿の絵がかかるラブホテル。


勃起した陰茎は、女の膣に深々と突き刺さっては出る。
より根元まで入れたいが、平均的な長さであった。
股間に女の愛液が付着する。
膣が閉まり、脈打つ気配がする。
「中でだしちゃ、ダメ!!」
騎上位で男の上に載った女は鏡を見ながら自ら胸を揉んでいる。
黒い乳首は突起している。
「はっ・・・あっ、あっ、ああっ! いい、凄いっ、凄いっ!!だけどっ、
まだよっ、まだよっ!!」
腰使いがいよいよ激しくなった。
長い髪が還り、めちゃくちゃに揺れる。
ホントは中に出して欲しい。
暑きものの快感と膣の持つ征服欲。
搾り取ってあげたわ・・・

女は神聖なものではなく、実態は奴たる淫乱の神である。
生理前だから、子供は出来ない。
―――でもね・・・?
誰に問うというのか、女にはわからない。
何処からかそんな声が聞こえる。
こんな快感むは初めて・・・
地軸が曲がり、アスファルトに清水が沸く、チョロチョロとした声だ。
しかし。
生理前の肉体は大波のように男の陰茎を攻める。絶頂まで、もう少しのようだ。


高ピーな女。
24歳の中学の数学の教師。
けれど何を言うのかこの女。
裸になれば男同様の性欲がある。
陰毛が濃い。光ありそれは愛液。
「もっといやらしいこと言ってっ、言ってよ!・・・ワタシ、恥ずかしい格好
してる? ねっ・・・してる? あっ・・・暑い、アソコが暑いよ!! 凄いよっ!!
言っていい? もっといじめてよっ! オ○○コと、あっ、ああ・・・ワタシ言っていい?」
―――出しては、ダメ? なら、出してしまえ。
「根元まで、入っているぞ? 教え子が見てたらどうする? こんなに濡れてどうすん
だ? 鏡見てごらん。黒いペニスが、黒いオマンコに入ってるぞ。オマンコって
言わなきゃ抜くぞ?」
歌麿の絵を見ろと女の腰を掴んだ。
少し陰茎を戻してみた。洪水のように、乳白色の愛液がこぼれ、ベッドを濡らす。
「抜いちゃイヤ!! だめっ! ああっ、ワタシの濡れたオマンコに黒いペニスがっ、
ああっ・・・あっ・・あっ・・オマンコ オマンコ・・・いっ、い・く・う!!」


男女の戦いはSEXにも、ある。
快感に負けたわけではない。
征服である。男はドクドクと射精した。
女の膣もビクリ、ビクリと脈を送っている。
勝ったのはどちらか?
しかし、勝敗はともかく、出来たのは間違いない・・・。
何が?
子供であった。
まだ、若いふたり。
でもね・・・ふたりに誰かが問う。

外に出せば・・・選択はもはや無効であった。



ある日の未明にひとりの少年が、人気無き高層ビルの屋上にいた。
勉強していったい、どうするというのだろう?
統計では日本人男性の平均寿命は、80歳。
勉強してどうするのだろう?
永遠な命なら、努力してもいい。
けれど僕の学びが、一億三千万の命に、どう絡むというのだろう?
東大に楽に入れる優秀な頭脳を持つ少年は、それ以後に憂慮する。
たかが80年の命ではないか?
広大なる宇宙の中で、僕の存在は微生物にも満たぬ。
80年、残り60年の中で、果たして何が出きるというのか?
好きな子に振られてしまった。
たかがひとりの女性に振られるようでは、僕の力など知れている。
賛美される人生などは送れまい。
この時少年は己の心の弱さを知った。
挫折である。
ポケットから遺書を出し、靴を脱いでその脇に置いた。
生きる意味が見出せないと書かれている 。
少年は遺書を見つめ、やがて手にとり、破った。
破った紙を口の中に放り込んで、飲み下した。
肉親、知人。悲しむのも悠久の歴史の中で、微生物にも及ぶまい。
金星が点滅している。
60年たっても、あの星まで行けない。
その星を掴むような格好で、ビルの屋上から飛び降りた。
選択はもはや無効であった。
このまま生きていれば、世界的医学者に成長し、多くの人間を助けられるはず
だった。




いつの日か狂いが生じた。
縦に伸びるはずの時間軸が、横にも伸び始めたのである。
ある中心があり、何もしなければ、ひとつだけの歴史を作るはずだった。
法則を破ったのは何者なのかは解らない。
中心から放射状にと歴史は枝分かれして行った。
その空間では子供か生まれていた。
その空間では中で射精する事がなかった。
その空間では路上に叩きつけられ即死した。
その空間では天才的医学者になっていた。



でもね・・・?
地軸が曲がり、アスファルトに清水が沸く、チョロチョロとした声だ。
その日宇宙が、曲がった。