箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

アマゾンのジャングルの中に作られた擂鉢状の基地。
基地?見た目は基地と呼ぶには少し御粗末な作りだ。 
たったひとつのR構造(ラーメン構造)の白き二階建ては本部らしく
そこだけは牙城のように見える。

足音がした。 

集団を認めたふたりを監視する女が緊張したように敬礼をした。


「・・・お迎えが来たようだぞ、ケント?」
褐色の肌をした筋肉隆々の大女を先頭に、10人の白黒黄様々な肌をした女ども
が続いている。
黒いブーツ以外は何も纏っていない。全員が全裸である。しかもこれ以上なき
完璧なプロポーションばかりだ。
東洋人それも日本人らしき顔つきの女もいた。
ふたりは眩暈を覚えた。
女どもはそれぞれがマシンガンや拳銃弓などで武装している。
「奥歯をひとつ噛むか、ユウイチロウ?これは悪夢かまやかしかも知れん。
やまぐもから分離される攻撃衛星は直ぐに軌道上に来る。ビームをお見舞い
すれば、事は簡単に済むのだがね。いや・・・ジョークさ。腹が減ってたまら
んもんでね。得体の知れない姿色形よくないアマゾンの魚など吐きながらも、
もう食う気もせんよ。一向に慣れん。ま腹が減ったら転化を望むさ。気が
散れて良い」
「なるほど、さすがに不気味なおかずだね。絶対に慣れない味だ。つまり体には
入れてはいけない魚の煮付けだ。クサヤの干物など問題にならん。・・・敵?
ま、守備隊が数十名殺された。何故かしっくり来ないが今は敵と呼ぶ以外ない。
首魁の顔をじっくりと拝ませて貰い、真意を知ってからでも遅くない。直ぐに
は殺すさないだろう。どうやら政治家として一回目の大きな正念場が来たよう
だなケント?・・・グッ!!」
高根沢は右肩からヘソのあたりに、熱い痛みを感じた。
「The slave fall silent!!(奴隷よ、お前たちうるさいね!!) 」
鞭の一閃。スーツの上からだが、皮膚は即座にミミズ腫れになった事だろう。


「Stand a slave!(立ちな、奴隷よ!)」 
先頭の大女が一喝した。
「俺たちは奴隷だとさ・・・ユウイチロウ・・・」
卑しくもアメリカ大統領と日本の首相を拉致し、奴隷呼ばわりする女どもは
何者か?
アマゾネス・・・実在したが、何の意図をもって世界の指導者を攫ったのか?
高根沢に同行した内閣官房副長官も何者かに拉致された可能性が高い。
ここにはおそらく居ないはずだ。殺されたのかも知れない。
攻撃レーザー衛星を呼ぶ事は簡単だが、やまぐも計画の秘密が漏洩する。


おそらくは・・・おそらくは・・・。
護衛の原島たち常央大の精鋭がジャングルに潜んでいるはずである。
海兵隊もSPも次々と倒される中で、原島の空手は猛威をふるっていた。
その鋭い突きが女賊の内臓を軽々と貫通させ、天空へと上がる蹴りは人間の
頚骨などいとも簡単にへし折る。
水府流棒術の使い手の絹川の棒が舞い、弓の名手張替の正確な矢が後方で
支援した。
まともに戦っているのはこの三名だけであったが、多勢に無勢。力つきたのか
ぐらりと原島の体が倒れた事までを高根沢は見た。
その後は麻酔に眠らされ何も覚えてはいない。
奴らは簡単には殺されないはずだ。
―――生きていてくれよ・・・若き武士たち・・・
高根沢は彼らに祈りをささげた。


「Fall silent!(お黙り!!)」
今度はケントに鞭が一閃した。
「・・・A beast!つう・・・麻酔をかけずメスで切られたほうがいい痛みだな。
分かった、もう何もいわない」
やめてくれと割れた眼鏡をかけ立ち上がると、女賊はすぐさまふたりを囲んだ。
手には鞭。マシンガンを吊るした足の長い白人のブロンドが、おしげもなくさら
け出した豊かな尻をむけると、二人はよたよたとそれに追従するように歩き
出した。
意識せずとも勃起するふたり。男とはかくにも弱き生き物だったのか?
―――こんな豊かな肉体を武器にされたなら海兵隊とて負けるはずだ。


「ホウ、ホウ・・・」

褐色の大女が今度は最後尾に立ち、フクロウのような奇妙な叫びを上げあたりを
鋭く見回した。