箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

士郎は室内の灯りという灯りを点けた。
急いでテレビのリモコンを入れ、音量を大きくした。
人気者のお笑い芸人が馬鹿笑いしている。
独り身の士郎にとって、今ディスプレイに映し出された異様な光景を
現実の物と知った脅えからであった。
テレビを見ると士郎はなんとか精神の均衡を保つことに成功した。
あり得ないがあった現実の残り香に、当たり前なあり得る現実が電波の
中から突起し、士郎の部屋を万華鏡のような歪んだ空間にしている。
同期の者からメールが無かったら、疲れからだと納得して眠りについた
事であろう。



・・・メールなどない方が良かった・・・
士郎ひとりであればよかった。
奴も何かを見たのだ・・・
おそらく今PCに向かっている世界中の人間があり得ない画像を
ありえた物として解釈したに違いない。
言いようのない悪寒が全身から湧き出ている。
震えるたびにひとつひとつと、観た物をはっきりと思い出した。



いつかしらの大海戦・・・PCのモニターに見える夥き血や死体はまだましな
方だった。


何よりも恐ろしきは、戦わない一隻の小型艦【オオカゼと船体に書かれている】
がクローズアップされた後、うっすらと天空を覆った地上と巨大な人の影が始
まりだった。


うす赤き空に草むらがある。
そんなありふれた日常にも見られる風景が天空に広がっていた。
ただし家も動物も車もない。
あるのは草むらだけだ。
そしてその影に誰かか隠れこっちを伺っているのだ。
ロウのような白き姿が士郎に襲いかかるように巨大になる。
顔を下に向け影から一本の手が出た。
手には箱のようなものが握られている。
・・・あれは・・・?
士郎は絶句した
・・・大学時代・・・伊豆に旅行に行った時・・・お土産にかって来た
大島椿の香料ではないか?
布巾を姉さん被りにした頭の部分が大きくなる。
それは8年前72歳で死亡した祖母の姿であった・・・


「しろうがアルバイトで稼いで買ってくれた大島だから・・・
ばあちゃんもったいなくて使えないんだよ」
祖母言った。
棺の中に大島椿も入ったはずだ。
過去が蘇る。時空、霊界が混沌としている。


その時同期からまたもやメールが入った・・・