箱舟が出る港 第六章 一節 残照 四

「すりかえられた・・・やはり何かがあるな。無秩序が秩序になり
つつある、法則性が現れた。合成の誤謬だ。おさらいしてみよう。
はじめに、常央大学病院で赤子の消滅ありき。次に大洗を発端に日本
各地で死体が発見された。昨日までその数は六千名を数えるらしい。
いずれも骨だけの死体、全員が男だ。今では世界中に広がってる。
世界保健機関はMMVと名づけた。ウィルスだという。ごらんのように
11月も半ば過ぎというのに、まだ猛暑だ。南極の氷が溶け出した。
地球温暖化が叫ばれて久しい。原因は有害物質だという。循環型社会の
形成を急げと環境ISOなる金儲け基準が蔓延した。即ち誰もが不思議に
思わなかったのだ。逃げる事が精一杯だったらしい、筑波山の火山活
動?により男体峰から宇宙船らしき巨大な物体が現れ、宇宙に姿を消
した事を見た者も少なく、いるようだ。水戸市内上空に生物らしき正体
不明の化鳥のようなものが飛来し、太平洋のかなたに消えたという。ひと
つひとつの不可解な現象は、一見関連性がないと思えるが、そうではなか
った。学者は言う。科学や医学ではありえない現象だと。ありえない現象な
どない。ならば科学は何のために存在すると言うのか?科学はありえない
現象を、そう、・・・追求すべき学問だったはず。それらしき事が起こっ
ている事を認識しているが、実は科学は何の解明もしていない。飛行機が
飛ぶ原理さえ、本質は掴んでいないと言う。地球人は今こそ謙虚に目覚め
なくてはいけない。この惑星の支配者ではなかった事をだ。何者かが進化
を望んでいる。進化させようとしているのだと、思う・・・」



この昼行灯めがと、天貝も明津も、定年退職近い、古川の眉間の当りに斬新な
影を見た。
何事も事なかれ主義だった古川デスク。
かつて全共闘の一員だったという団塊の世代は、歴史が変りつつある事を楽
しんでいるようだった。
「それで、もう一匹は、どうした?」
来たかと天貝は、古川と明津を交互に見た。