箱舟が出る港  第三劇 二章 月世界の戦慄

オレゴンボルテックス・・・
ケントは豊かな髪を掻き毟った。
たかがSFじみた話であると一笑にしたケントだったが、引っかかる
ものがあった事は確かだったと回想する。
遠慮がちに言う執務官の目は嘘でも冗談でもなく見えた。
もう少し話に興味を持てばよかったと後悔した。
なるぼと・・・公的な立場に立つ者、それも大統領たるものが、異空間
の調査など馬鹿げた事は出来ない。またそんな事実などありはしなかった。
・・・あの時は。
・・・そうだ、入手先は闇の中だった・・・
必死に今思い出そうとしていた物・・・それは執務官が懐からチラと見せ
たものは、例のフラスコではなかったか?
次元透過望遠鏡とも言える未知の塊。
入手先は闇だった。
その後執務官は交通事故で死んでいる。
市島に渡している望遠鏡は誰を媒介としてこの手に入ったのか?
知っている者がいる・・・
それはここを牙城とする女賊、アマゾネスではなかったか?
MMVウィルスは依然として打つ手がない。
女は死なないが、男は絶滅する。
つまり地球にはいずれ子孫を残す術が無くなるのだ。
オレゴンボルテックス・・・
同様なる空間の割れ目があの部屋にあったのだ。
その道を通過し、アマゾンに着いたのだ。
影が揺らぐ。東洋人、日本人らしき若い女玉座から立ち上がった。