箱舟が出る港 第三章 一節 カタストロフィの日傘 六

murasameqtaro2006-11-09

指輪の色が鈍く光っている。
大林学長秘書が、指をキーボードに置いた。
「そこだ! そこで一度止めておいてくれていたまえ!!」
プロジェクターから大画面に投射されたその瞬間を確認すると
市島は秘書を制した。
「宜しいか?ここにひとつの鍵がある、検証は後ほどするがそ
の前に言っておく事がある。半年間は秘匿したいのだ、
日本政府も知らない重要機密だ....
、外に洩らして貰っては、困る、いいかね?」
市島は画面と教授連を交互に見つめながら、
搾り出すように言った。
「学長、本当に筑波は宜しいのですか?死人が多数
出ております!!」
インターネットで確認したのであろう。
地質学の教授が重い声を発した。
彼の興味は消滅よりも、現実たる筑波の(火山活動)に
あるようだった。
ゴホンと咳をし、視線を副学長に置いた。
しきりに井上はティッシュペーパーで鼻を覆っていた。
視線が合うと踵を返し、そっぽを向いている、
おおいに怒っているのだ。
無理もない。井上の言動は正論なのだ。
問答無用で下っ端の助教授に殴られもした。
このままでおかんぞ、市島、菰野、それに...
井上の眼は充血していた。
地質学の教授は諦めたように、二度咳を放った。


「向こうは自衛隊と、警察、地元の病院に任せておけばいい、
研究学園都市が近い、筑波大を始め沢山の病院もある。
常央の使命はまず私の話を聞いて貰う事にある」
「消滅と海岸一帯での不可思議な死、そして考えられない
筑波の噴火......一連の源はその話とやらの中にあると言う
のですか?」
地質学がメモを取り出した。
「そうです。以後質問は謹んで貰いたい...」
部屋中が静寂に覆われた。諦めたようだった。
「目を拡大してくれないか、どの赤ん坊でも宜しい」
ズームアップされた、目が画面に登場した。


「おおっ!!目がパッチリと開いている!!」
山下道則が大声を上げた。
考えられない円らな瞳がそこに存在していた。
生まれて間もない赤ん坊...なのに、だ。
「大林君、目を最大限に拡大してくれんか」
握った市島のセブンスターの箱は半ば潰れていた。
そこには、海があった。
青い青い海である。
砂浜もあった。風があるのだろう、砂が動いている。
そして、漁船らしき船影が、瞳の中に存在していたのである。
次に出てきたのは老人の背中であった。
赤ん坊の眼を媒介として、どことも知れない港も見えた。
....これは...これは?


会議室の中は暗黒の雲が覆っていた。