箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

murasameqtaro2007-10-13

「変な虫がつかなきゃ
いいですね。まともな
ファンなら許せもする
のだが・・・」
常央大洗野球部監督、
太田垣英彦は、那珂川学園
副理事長で総監督の
森内幸男にそう云うとネット
裏の観戦席を不安そうに
見つめた。
「軍司、白川クラスの高校野球
達人になれば、女生徒の狙いなど感覚的
に解るもんだっぺ、これはね。一流の条件だよ。
人の魅力か、人が持つだろう金が目当てなのかってね。
将来の金が目当ての女など、強いハートを持つ男なら
瞬時に知るものだっちゅうの。軍司はガラスのエースだ。少なくとも白川は相手
にしてねえよ。軍司があの娘に誘惑されるのなら、それまでの器って事だ。夏は
特別な時間だ。軍司は性欲には勝てないだろうよ。奴の夏は終わった。残念だが
二年は不作だっぺ。新しい投手を一年から発掘しちぁどうだ? いい素材がい
るようだが、な?」
森内は高校球界で合理主義者として知られていた。
森内マジックとして数々の名場面を残した監督である。
選手は一流でも公私ともに駄目と見た者は遠慮なくレギュラーから外す。
前身は女子高だった名もない公立を全国制覇させた実績を持つ老人だ。
その後請われて常央に移る。甲子園では茨城なまりの知将としてあまりにも著名
であった。
二年前引退して、太田垣に後任を任せ、総監督といっても事実上は野球にはタッ
チしていない。
「プール事件を総監督はご存知ですか?」
「理事会で問題になったあのつまらねえ事件だな?」
「そうです。昨年の夏。体育の水泳の授業で、何を考えたのか小糸は、ピンクの
ビキニで現れた。スクール水着が盗まれたとか馬鹿な言い訳を云ってましてね。
それがあの娘です」
振る首の向こう側には化粧をした派手な顔が手を振っていた。
「ありゃあサディスティックパーソナリティだなぁ」
甲子園のかつての名物監督。
エキセントリックな男と揶揄された森内が、ガハハハハと高笑いした。