箱舟が出る港 第二劇 二章 メタモルフォーゼ

murasameqtaro2007-10-20

「人間ではない
と・・・。
なら何者なのです。
姿形は人間そのもの
ではありませんか?」
テーブルに落とした
太田垣の大汗に、
聞き耳を立てたい
のか、また一匹の蝿が
止まった。
まだ早いと首を振り、
それには答えず、
「あれはね、雷などじゃないよ。強いて言うならば空から放たれた兵器だろう」
―――キラー衛星! まさか!?
戦略防衛構想 (Strategic Defense Initiative, SDI) 。
スターウォーズ計画とも言う。
アメリカ合衆国がかつて構想した軍事計画。
アメリカは今でも何をやっているのか、わかったものではないが、まさか!?
「へっ・・・何と・・・兵器ですと!!狙ったと・・・狙ったとでも言うのですか
!?」
「あの小娘か、磯前のどちらかだろうな。小娘が雷に乗ってやって来たなどと考え
ないほうがいい」
「根拠は。根拠があるのですか!?」
「あんたがた常大の先生方は何をしているかってえの。あり得ない現象が起き
れば、調査する事が学者の使命ではないかな? 監督はあんたに任せた。任せた
にも関わらずこの俺がのこのこ出てきた。何か思う事はなかったのか?」
「確かにその通りです。しかし雷は一撃だけであって、被害者はいない。以後
一度も起こっていない。現象は稀ではありますが世界のどこかで、あるいは起こ
りうる可能性もある自然現象かも知れません。それに常大は付属高校の教鞭に
一切タッチしていない。講師も送り込んでいないのです。また仮に送っても、
自然現象として一笑の元に忘れてしまうでしょう」
「・・・雷ではないのだよ。いいけ?その姿勢がダメだと言うのだ! あんたは根拠
を示せと云うたな? ならば見せてやるべや!!」
森内はゆっくりと立ち上がると、上半身裸になった。
「ようく、みとけ!!」


―――おお・・・・


呻いた。魂が抜けるような呻きを太田垣は発した。一滴の血も残っていないように
体が浮遊する。
干からびた老齢の体をケロイドが焼いている。うっすらと血が滲み、太田垣は
「痛くはないのですか」と辛うじて云った。それが何かを知っているのだ。
写真で見たヒロシマの惨劇の姿である。
放射能にやられたよ。残り半年も持つまい。直撃されたら即死だったな。まあ、
やり残した事はないから死ぬのは一向にかまいやしないんだがね・・・」
「医者は?即医者にかかるべきです!!。議論は辞めましょう!!さあ医学部へ
ご案内致します!」
暫しの沈黙が流れた。



「いや、いいんだ。治らない事は良く解っている。自分の体だからな。内密にし
てくれろ。どうしてもと言うなら後で後悔する事になるよ?」
「・・・そうですか。ならば総監督、いや副理事長。この際腹を割って話し
ましょう。常大は何かを計画してますね? それも上層部で。僕は市島さんに
誘われ、水産大学から常央に移った。最初は雰囲気など知る余裕などなかった
のですが、落ち着いた今近頃大学自体何故か妙に急いでいる気がする。大きな
哀しみが大学に入り込んでいる気がしてならない・・・。例えば民間初の気象
観測衛星やまぐも。膨大な予算は何処から出ていたのかと?気象など宇宙開発
事業団の衛星で十分ではないですか?他に何か目的ありと疑われ、確か三年前
市島学長や高村理事長が証人喚問を受けた。何がが進行している。副理事長の
放射能被爆もその一環ではないのですか?」
「それが感だよ。今は当たっているかどうかは俺はあんたに言えない。ただひと
つだけ教えてやろう。過去の戦争が今頃になって、亡霊のように地球に姿を現し
たんだなぁ」
「また戦争が始まるとでも・・・」
「違う。火種など中東や朝鮮半島などいくらでもある。違うんだよ。質の異
なる戦いだ。既存の戦争の形などではないよ、これはね。昔の亡霊が蘇ると言う
事よ。地球はどう変身するのか。それを俺は見れないだろうがな。ついでに
駆逐艦大風というキーワードを残して置く。地球人も疲れたのかも知れんな。
開け渡す時期かも知れんって事よ。しゃべりすぎたなぁ・・・では高月とか
言う小娘と、磯前の件に移るべえか」
放射能を浴びたかつての名物監督は相変わらず高笑いし、眼下の水戸市内を遠
い目で見つめていた。