最初の別離 〜其の壱

跳ねられた大井町線

青、ピンク、黄色などの回る光りに照らされた、祭壇。
安田は佐藤と、斉藤の親父との三人で、日本酒を飲みながら
昔の思い出などを話していた。
親族などは別の居間で頭を垂れていた。


木村、吉田、鉄砲塚、飯山など主要な男の友人、
いつも一緒に遊んでいた、
堀江、仙波、増渕さんたちH女子短大の四・五人の彼女たちは、
既に帰ってしまっている。
残ったのは俺と上記のふたりだけでした。
外は異常に寒い、クリスマス三日前の通夜でした。


―――そんなばかな・・・?
側頭部左、ここに少し血の滲んだ包帯が巻かれているだけで、
顔は生前のように、穏やかだった。
包帯の下、頭の一部が、欠けてしまったと言う。
つい五日ほど前に俺の家に来たばかりの親友の突然の死。
棺に入れられた彼の前に座っている自分。
残酷な時間を必死で否定しようと、
頬や膝を抓ったりしたけれど、
くるくる廻る祭壇に居る光りは、彼の分身のような
こびとに見え、俺を誘っているかのようで、
なんとも表現のしようがない重い眩暈を感じた。


―――こっちに来てもっとやってくれよ・・・
憔悴した斉藤の親父が俺の側に来てビールを差し出す。
―――いや、俺はいいですよ、気にしないで下さい
―――そうか、このまま朝までいてくれるんかぃ?
俺はゆっくりと首を縦に振り祭壇を見つめいた。
―――ありがとうね・・・
親父殿は静かにコタツへ戻った。


前日、安田と俺は親父殿に食堂に誘われていた。
通夜の相談とか葬儀に関する事で家に行った帰り、
何か食べていきなよ
と直ぐ近くの店に引っ張られて行った。
同じ歳の俺たちを息子の姿とだぶらせて、
まだまだ居て欲しかったに違いない。


家に親戚や組合の方がいたのもあり、
俺たちは遠慮して、食事を早々と済ませ店を出た。


俺からだったか?、それとも安田光一だったか?



―――○田よ、あれそうだよな
―――ああ、ダブダブだ・・・浩司が履いてたものだよ
小さい体をジャンバーで身に包んだ親父殿は、
歳に似合わないものを履いていた。


それは今は亡き息子が履いていた古ぼけたスニーカーだった・・・


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昔からある場所 マイリバ

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あの夏、この海岸に俺らは確かにいた。
そして故、斉藤浩司も・・・
松林の奥にある民宿に泊まり騒いだっけなぁ・・・
宿のビールが全て無くなってしまってw


夜。
海へドラゴン花火をぶん投げ
UFOのように飛び回る光は、防波堤にいた観光客に
拍手を送られたっけなあ。
あれは危険なのにねw
また釣りあげられた、エイ、も初めて見た。
畏怖があった存在だけれど、儚き生物だなぁ・・・
などと思っていたっけ、な。



「来年卒業して、仕事について、結婚したら、
またゆっくりと来てよ」と民宿のおかみさん。
「いや、結婚しなくとも来ます、約束します」と俺たち。


笑顔で手を振る民宿の従業員さんたち。


約束は今だ守っていない。


西伊豆、土肥海岸・・・


時は相当すぎたけど、ちっとも変わっていないようだ。


ひとり旅。
今まで一度もした事などないけれど、
来年にでも絶対に訪れてみたい、郷愁の地です。



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