今週のお題「自己紹介をしてみよう」


―――あの子が欲しい、あの子じゃ分からん
○○ちゃんがほしい


お祝いにプレゼントされたポケットの万年筆
○○○中学から来ました○○です 野球部に入りたいと思います
よろしくお願いいたします
少しシャイだったかも知れない
けれど皆同じだった
二ヶ月も経過しないうちに自由になれた
混沌とした色の中みんなは青を選んで行く
―――お前のクラスのあの娘を紹介しろよ
高校の校庭に青空への階段があった




お祝いに食べさせて貰った祖母のポケットの中
美味しいでしょ 卒業したらバアちゃんにご馳走してよ
何処へでも疾駆する ゼミ旅行で行った下田
キャンパスにはいつだって蒼い飛行機があった
民宿のおばさん、○○ゼミの○○です よろしくお願いします
まだ卒業してなかったけどバイトで稼いだお金で大島椿を買ってきた
使ってくれていたと思っていたっけ



逝くんじゃねえよ、ばあちゃんよとポケットに白いハンカチ
初めての肉親の死
これからお前ももっとしっかりしなきゃなと親父、お袋
この家の長男の○○です。皆さん本日は亡き祖母の為に・・・
ハンカチを目に当ててご紹介



数ヵ月後祖母部屋を掃除していたら大島椿が出てきた
なんで使ってくれなかったんだと天に紹介を仰ぐ
友達と旅行に行ったってバアちゃんのことを忘れていなかったんでしょ、だから大切にしていたんだよ、と
―――そうか、今更だけどいつも見ていてくれたよな
空はひとつでなかった事を知ったよ
広い視野で物事を見る目が出来た事、大人になった証拠だとその空に居る祖母に紹介する
―――そうか、良かったね




北海道丘珠空港に現れた父母
―――こいつが○○子です そしてこちらがご両親
学校は東京で何度も茨城まで遊びに来て、とうにそれは知っていたけれども【大切な顔合わせ】の日だった
ちいさなよろめきがなかったら、とうに俺は北国で生活していた


見抜かれる
―――両親よりあたしを大切にしてくれるなら、長女だけどそっちにも行けたのよ?
遠路遥遥俺の為に飛行機でやってきた親を見て少しだけ心がよろめいた
ほんの小さな躊躇いを女性は見逃さない
―――じゃあ帰るわ
―――うん・・・元気でね、さよなら
―――・・・
言葉にならなかったけど、クロスすることのない未来を紹介した



時を経てやがて墓前
あんなに楽しみにしていたのに
―――娘の○○です 
生きているうちに会わせてあげられず悪かったなと子供を紹介する
―――すまなかったな




そしてまた時間が流れ
青き空は思い出のスクリーンと化した
花、匂、陰、直、秘、雨、哀・・・などなど数え切れないものが空のページを疾駆する


自分にとって紹介とは
今一度自分を生き方などを見つめなおし
心の中にいるかも知れない内なる神に自分自身を判定してもらう事




―――あの子が欲しい、あの子じゃ分からん
今は? 
―――何とご紹介すればいいのだろう


軒醒、村醒、県醒、・・・酔いと霖雨


記憶のフィルムをもいちど取り出し、あの日の万年筆でメモしながら

―――あの子が欲しい、あの子じゃ分からん

冷たい水で顔を洗って、心を丸めあの日に相談してみます