業務上横領

清き沢

ある会社の財務諸表をみる機会があった。

損益計算書、雑損勘定に、約五千万円。
企業規模からして、実に大きな金額である。
雑損勘定というのは、損益計算書において、
おおまかには、どこにも属さない出費を指す。
例えば現金の帳簿残高と実際残高。
一円ほど実際残が少ない場合、帳簿算残に合わせるために
この勘定を使う。


で、その内訳が決算書にある。
内訳明細書の16である。
名目は【監査不一致】
これはなんですか?
と尋ねると、総勘定元帳を見て、判断してください、
私にはなにもいえません・・・
だった。


直ぐに解った。
現金残高がなんと三千万〜四千万の月もある。
自分の目は直ぐに金庫に行った。
こんな大きな金額など入るはずがないシロモノである。
だいたい現金なんてものは、
手元に大金を置いておくはずがなく、
銀行に預けてしまうのが常である。


何月何日、○○銀行へ二百万預け入れ。
どれ?
と通帳を拝見した。入金の記録は、ない。
預金入金とある現金出納帳だが、
通帳に入金の記録が、ない
それがたくさんあった。


解りましたか?
監査役が口元を緩めた。


「顧問税理士は何やってたんですかね?」
経理部長のやる事だから、間違いないと思ってたとか。
税務が税理士の仕事であり、数字の照合は
公認会計士の仕事だと嘯いてましたよ」
「・・・・」
刑事告訴などは?この金額なら新聞にも大きく出ますね?」
横領だと直ぐに解った。
「今ではこちらの子会社だが、かつては同族会社でね。
そこの社長に懇願されたんです。月十万、返済の予定でね」
「その経理部長さんは、今?」
社会保険事務所にお勤めのようですな」
「・・・・」


「立て直せますか?」
「売上も特に下降してないし、負債もさほどない。
売上債権の回収率を高めれば<<
さほど難易ではないでしょうが・・・」
「じゃあよかったら、明日からでも」
「・・・少し考えさせてください」
「・・・そうですか、是非いいお返事を」


働きに働いた勤務先を退職して、
面接にいった会社での出来事である。


近くに社会保険事務所がある。
そういう人物を雇用するなど・・・
国はいったい何をしているのか?
ますます年金関係が信用できなくなり、
またそのような体質だった会社など
入るわけには行かなかった。


なんでもその女性経理部長さんとやらは、
何食わぬ顔で社会保険事務所、一階受け付けに
おいでのようである。