祭り(少年の日) 三

17時になるとシバの女王が流れる。一日の仕事の終わりの合図だった。
悪臭がする簡易トイレの前を通り、使用されていた土建屋飯場へはいる。
今は体質が変わり、ある点まで動くと汗がどっと出るが、その頃は違った。
作業着が汗だくの大人たち。こうして辛い仕事を終え、女房にスカートでも買ってやるのだろうか?
俺は当時最新鋭だったアイワのミニコンポとヤマハのベースギターが欲しくて始めたバイトだったが、
大人たちの生活が汗だくの作業着にこびり付いていた。
そういえば親父はどうしているのだろうか?極道息子のために上司に頭を下げているのだろうか?
ふと頭に風が流れた。
バイト料が入ったならば・・・学費にでも・・・風は強風になりベクトルを変えつつあった。
『アンちゃんたち根性あんね。こないだ来た筑波大の学生は一週間も持たなかったべさ』
上半身裸になった鉄筋工ががはははと笑いかける。いつもの殺気が幻か、と思えるほどの優しい笑みだった。
気に入られたのだ・・・妙な親近感を感じ嬉しかった。
刺青など入れている。違う世界に住んでいるんだなぁと感じていた男はやはり同じ人間なのだ。
『俺は苫小牧から来ていてね、向うで仕事がないから、あっちの岩上土建に臨時で入り、大日本土木の下請けとして
働いているわけさ。あんちゃんたち学校出たら何になると思っているんだイ?』
何も無かった・・・何をするか決めていない。目の前のミニコンポが欲しいだけだった。
思えば小学校時代みんな窓の外をちらちらと見ていた。授業中・・・なんとなく外を見ていた。
それはなぜか?勉強に呆れたからか?多分違うだろう。
そう感じたのは近くの小学校へバイトが休みの時、野球をやりにグラウンドに行って気づいたのだった。
あの日の教室がまだあった。窓も同じままだった。
その窓から教室の中を見る・・・
すると少年時代の俺が机に居て、刹那目があった幻惑にかられたのだった。
『駄目だよ・・・ちゃんとしなきゃ・・・未来のオレはそんな姿じゃないんだよ』

〜続く〜