murasameショートショート 寺田の災難 最終

murasameqtaro2011-01-29

寺田はアパートに帰ると一目散に味噌汁の用意をした。
米も少し買ってきた。
時間はお昼ちょっと前、タイミングがいい。
20年も前に買ったテレビをつけた。
寺田のことだからNHKの受信料など払っていない。
―――すいません、受信料の集金なんですが
―――あのね、うちは、NHKは観ないんだよな だから払う必要なしだな
または集金が来る事をあらかじめ察してテレビを押し入れに隠す。こうして一度も払ったためしがない。
スーパーの試食やこういった事に関しては鼻が利く寺田である。
―――どれ、ニュースでも見ながら味噌汁定食でも作ろうか
ボタンを押した。リモコンなど電池はないし、食い物を探しに来たネズミに部分部分をかじられ、ぶっ壊れている。そのネズミも出て行った。貧乏神かも知れない寺田である。
幸い画像は鮮明に映った。
―――お昼のニュースです
ふんふんと鼻歌を歌いながら寺田は味加減を調整している。
匂いもかいだりしている。あの忌まわしい回虫の姿が脳裏にあるからだ。しかし今度は新鮮な味噌と具である。




―――出来たぜや!
ゆわゆわと上る湯気が寺田の腹を刺激する。おびただしいよだれが出た。腹は益々減っているが、眼前の食い物に、寺田は疲れを忘れていた。
これを食べればバイトも決まっているし、それまでに最低限の生活は出来よう。
―――んでわ頂きます X君お金をくれてありがとうクソギョーチューめが、やすらかじゃなく苦しく眠りたまえ



―――次のニュースです。本日午前十時頃○○町のスーパー○○で一枚の偽札が発見されました。警察は・・・


馬鹿なヤツも居たもんだど寺田は鍋を手にして、味噌汁を飲んだ。椀では面倒だ、この空腹をどれだけ我慢したことか。
「ふーーーーーーっ、うめえなあ」
しみじみと天井を見上げる。
と、その瞬間であった。



ドーーーーーーーーーーーーーン!!


大きな音が屋上からやって来た。
―――なんだ、なんだ、なんだっ!?
驚いた寺田は上を凝視する。
「バキッ、バキ、べリべリ!」
かが屋根を突き破り、天井を破壊して落ちくる気配。
「べリッ!!」
―――おおっ!?




「びっちゃゃゃゃゃゃゃゃーーーーん!」


味噌汁の飛沫が飛び散り、寺田の頭をはじめ全身をずぶ濡れにした。
―――なんとなんと・・・?
寺田は絶句した
新しい味噌汁の鍋の中に落ちたそれ。
味噌色の大きなミミズのようなもの・・・
何と葬り去ったはずの回虫がうごめいている!
―――や、や、や、や、や、?
回虫は鍋の中でぴょこんぴょこんと暴れ、直ぐに飛び出した。
すると寺田の顔をめがけて飛び上がった。
「ぎゃおーーーーーーっ!!」
かろうじてよけた寺田。
いったいどこが首か顔か解らないが、回虫はコブラのように、攻撃の構えを取っている。
鎌首が寺田の股間を狙った。
箸を投げ寺田はそれを回避した。
弾力性のある回虫の体はそれを跳ね返し、再度寺田に襲いかかった。
―――ここここ、この野郎!
回虫はいつの間にか五十センチほどの大きさに膨れ上がった。
―――こいつめ、また邪魔をしやがって、やったろうじゃねえかい!
怒髪天をつく寺田。
「がっしゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃん!!」
投げたしゃもじが窓を壊した。炊飯器も当たらずこれまた薄い窓を壊し外に転がった。
寺田と回虫の壮絶なバトルが始まった。
回虫は蛇のように寺田の胴に絡みついた。
―――いてててててて
また腹が痛くなった寺田であった。




―――○○警察署は偽札を使ったと思われる近くの住民から事情を聞く構えです。尚この偽札は今後の調査にもよりますが旧式のパソコンで作られたと推察され・・・




一方の割れた窓の外にひとりの男がいた。
家庭菜園の親父が意味ありげにニヤニヤと割れたガラス越しに見ている。手には農薬を散布する機械を持っていた。
回虫は何も環境衛生の怠慢だけで現れる物ではない。
野菜などを作る場合、ある飼料を使うと発生するのである。噴霧機の中にそれが入っているのか誰も知らない。
にやりと意味ありげに一瞥すると、ゆっくりと立ち去った。




反対側の窓には40歳前後の女が震えて立っていた。
―――あんなヤツでも可哀想かと思って戻ってきたけれど、オモチャとじゃれあっているようでは・・・
女房も勝手口のこれまた割れているガラスの隙間から、その格闘を呆れて見ていた。回虫とは知らない女房。当たり前だ。そんな大きなのは見た事がない。第一回虫などは知らないのだ。
それは今や1メートルに達しようとしていた。
―――貧乏神めが、見限ったわ!
もう二度と帰らないと菓子パンをかじり、一目散に逃げ出した。




その頃寺田に金を貸した友人Xは、大きなトランクを手にして、ジュネーブ空港に降り立った。
東京の方角を見るとニヤリと笑い、タバコの煙を吐き出した。
―――馬鹿めが 俺の証拠は全部消した。お前に預けた偽札作りのパソコンには俺の指紋はない
タクシーが来ると「○○○スイス銀行へ」と告げた。
トランクは偽造札で儲けた本物のスイスフランがぎっしりと詰まっていた。




遠くからパトカーの咆哮が大波が押す砂の音のように聞こえてきた。
軒先に無造作に置かれている古ぼけたパソコンが、まるで磁石のようにその音を吸収するかのように待っていた。







〜寺田の災難・終〜

※この後気が向いたら、寺田の子供を登場させ続編を書くつもりです。

牛久市在住の○田ウー君。モデルをありがとうでした。パチンコは駄目ですよw



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