murasameショートショート 寺田の災難  1/4

ねぎ

「おいててててっ!!」
寺田は腹を抑えた。




まともなものをここ二十日ばかり食べていない。
カップ麺と夜中に他人の家庭菜園にいって拝借したキュウリとネギばかりだ。
―――いつも盗んで行くのはキサマだなっ!?
家庭菜園の主人に懐中電灯で照らさた寺田は一目散に逃げた。
警戒していたのだろう。拝借したのは数え切れない。
二度と行けぬ。行ったら今度は刑務所行きかも知れない。
他には菜園どころか田畑もない都会の中である。
界隈のスーパーの全部が寺田を出入り禁止にしている。
試食品を全部食べ歩いてしまったからだ。
手元には30円しかない。昨日は70円あったが友人に電話しての残りがこれである。
友人に十万円借りる約束がやっと出来ていた。




失業保険が切れて二ヶ月になる。
40歳を目前にして寺田は職を失っていた。
妻にはあいそをつかされとうに逃げられている。
我ながら情ないと呟いたが、腹が減って反省する気力も出ない。
食事の材料として、まともじゃない物もすでに無い。
もはやすっからかん、であった。
しかし、幸いにも3日後の勤務、バイトであるが職を得ていた。




残っているのは味噌しかなかった。
腹がグーグーなってどうしようもない。
腹と背がくっついている。
しかしだ、今日さえしのげばなんとか、なる。
その前に多少の腹ごしらえをしなければ動けない。
空腹でふらふらする。倒れそうだ。



いつ買った味噌かど忘れしたが、味噌汁にすれば腹は多少収まるだろう。
電気もガスも止めますよとの通知が来ていた。それが今日だ。
汚い鍋に水を入れ具のない味噌汁を作った。
これも汚い碗に入れて一気に飲み干した。
二杯、三杯と立て続けに飲んだ。
―――ああ、うめえ、あいつのところへ行くまでの体力はなんとか出来たな
と思った矢先に強烈な腹痛に見舞われたのである。





〜寺田の災難(全四回です) 〜 次回に続きます〜