箱舟が出る港 第六章 二節 装束 九

murasameqtaro2007-04-09

「家の近くに
山林があります。
弟が釣りが大好きで、
手作りの竿を作ってます。
材料の竹を取りに
私も付き合うのですが、
ゴミが目立ちます。
不法投棄禁止の
立て札があるにも関わらず、
捨てている人が多いんですね。心が荒廃している
のでしょうか? ちいさい頃はそんな風景は無かったのに・・・世界中がゴミの山に
埋もれてしまうのではないでしょうか? 生き延びるのは、
ゴキブリではないでしょうか?
このままでは人は遠い未来滅びてしまいます。私は環境浄化ソフトを作り、
世界にも、日本にも御社にも貢献したいと、希望を持ってます」
真理は自然を装い、視線をスカートに置いた。
微妙に足を広げ、三人の面接官の表情を覗った。
つられて瞳を支点とし、股間へと、中年の面接官は目を送るはずである。
ここ巡行日立以前、五社の人事担当は、吸い寄せられるように、
ピンクの下着へと目を送った。
だが、ここはどうも、色気などの小細工は通じないようである。
二人は真理の眉間あたりを観察したままであり、山中という初老は相変わらず
目を閉じている。
性格はともかく、稀な美貌を持ってしてでも、課長レベル如きまで、一切反応を
示さないのだ。
しまったと、真理は後悔した。
小さな会社と侮っていたが、不採用となった他の大企業より、鋭いものを感じた。
「環境浄化ソフトですか? はて? 有害物質排出基準に、ダイオキシン
フロン等他の規制の法律があります。しかし、環境を著しく悪化させているのは、
有害物質などではありません。何だと思いますか? 」
「・・・・・・・・・」
大島なのか花形なのか、真理には分らなかった。
次の面接のあては、ない。
たかが町工場がと思っていた。
俯くばかりだった。
「それは、あなたのような、心です」
初めて聞いた声が左から上がった。
社長の山中であった。
しわがれた、灰色の声色であった。
と、同時に大島と花形と言う面接官の首がガクリと傾き、テーブルに伏した。
「驚かんでもいい、お嬢さん。
これはロボットだ。名を"心" それぞれ 2号、3号という」
キャーという真理の絶叫を制して、色黒の初老の男が、人懐っこい笑みを湛えた。
「小糸さんとやら、驚かせてすまんが、これが我社の面接だ。そして巡行日立は、
あなたのような心の持ち主を救う事を企業理念と、している。
お嬢さん、あなたはMMVに感染してますね。
"心" 2.3号は、すまないけど、あなたの性根を読ませてもらいました」
大きな目を、これ以上無いほどに、大きく開いた真理であった。
「社長、いかがいたしますか?」
面接室を区切るパテーションの後ろから、静かにふたつの姿が上がった。
それは今しがた真理を面接していた、大島と花形の姿であった。
目の前で崩れたもう二つの大島と花形は、電池が切れたように、動かなかった。