箱舟が出る港 第三劇  一章 やまぐも計画

大型コンテナトラックは高萩市内に入ると山間部を目指した。
ゆったりと三人座れる運転席だが、図体のでかいふたりにとって
窮屈である。
運転するは、空手の毒島清人
助手席で腕組みをし、ひとことも口を聞かない男は、全学応援団団長
知流大吾。
コンテナの中には一匹の化け物と、それを見張る十人以上の仲間がいる。



「いいい、いいかげん、かかか、かえったらどうだィ?」
相撲の荒木田がチューインガムを褒美だと男に差し出した。
「帰れだとぅ?なんという言いぐさだ。トラックは組のもんじゃねえか。
化け物退治に俺も一役買ったんだ。ここは仲間に入れろや!!」
手を払いガムが飛んだ。
「じょ、じようだんじゃねえぞ。あああ、あああ・・・あん時おめぇはやくざと
・・・ととと、言ったな?くく・・くずを仲間に入れたら常央大全学エンダンの
な・・・がよう・・・名が腐る。ななな、なっ、なんだ、その刺青は、ああ?降り
ないなら力づくでも、そのよう・・・たたたた・・・叩き出す!!」
吃音の荒木田はやってくれとレスリングの白拍子に親指を立てた。
「悪いがあんたはこの辺で降りてもらおう。いくらヤクザだろうが、この先は命を
大切にしたほうがいい道に続いている。あんたは選ばれちゃ、いないのさ」
仁王のような男がやくざ者の肩に手を置いた。
腕力ではとても敵わないのはよく解っている。
「・・・まっ、まてよ。今は龍堂組山桜会若頭だが、俺も常央大に縁がある。
先輩と言えた義理じゃねえが・・・その・・・合気道だ。立花団長の元で
応援部の平幹部だった。俺が合気道部をつぶしちまった・・・。
廃部にしてしまった。暴力沙汰を起こして退学さ・・・俺は今でも正当防衛だと
思っている。菊村愛を助けるためにな・・・ひとりで俺は7名のガキどもに立ち
向かった。その結果4名殺し、3人は重傷。愛は殺されたが、俺も殺人者よ。
正当防衛と言えど学校がほおっておくわけにいかねえだろ・・・?」
「・・・あんだとう・・・? ほお・・・じゃああんたは、あの山城なんとかとか
いう伝説の奴か?」
立ち上がった白拍子は山城なるスキンヘッドの顔を凝視すると、静かに腰をおろし
あぐらをかいた。
「・・・そうだ。山城隆三だ。菊村貢には申し訳ない事をしたと・・・今でも
思っている。奴には償いきれない失態を俺は起こした。菊村は今でも剣道を教え
ているのかぃ?」