大山倍達伝 三

その頃梶原一騎は大山に手紙を書いていた。
古書店で見た【牛を倒した男】に興味を惹かれたのである。
梶原自身柔道の猛者であったが、飛び道具(蹴り)がない格闘技に幻滅したともいわれる。
・・・弟子にして頂きたいのですが
内容は空手への志願であった。
しかし待てど暮らせど返事は来ない。
やがて正月に入った。
梶原たち芝商業高校柔道部は、神奈川の海沿いの街で合宿に入っていた。
ところがある部員が露天に出ていたオデン屋とひと悶着おこす。
若気の至り・・・例え柔道をかじっていても、相手は本職の喧嘩屋(暴力団)であった。
ナイフで肩口を切られた部員は梶原の元に走る。
・・・何だと?
血の気の多い彼は雲を霞と現場に直行、天秤棒を振り回し大暴れする。
相手もさる者、屋台をひっくり返し、煮立った鍋を梶原に振りかける。
喧嘩のプロである。
そのうちにパトカーのサイレンが聞こえた。
梶原は三十六計を決め、現場から走り去る。


大山は自宅で弟子も取らず、独りで技を磨いていた。
牛殺しの大山・・・
まだメディアインフラが発達していないその時代、牛と戦うなど馬鹿な事をする武道家など、誰も知らなかった。
ただその頃の映画を観た一部の人々は、前座のニュースで感嘆したという。
空手は凄いと・・・
浜辺らしき場所。
柵を作り、観客は外で見物させる。
パンツ一枚の大山。空手独自のすり足で牛に立ち向かう。
牛の大きさは解らないが、猛牛という程でもない。
猪とか豚とかを蹴ったり殴ったりの経験がある人(そんな馬鹿は居ないと思うが)は理解出来ると思うが、
どんなに力まかせに痛打しても、意に返さない。
それほど動物の骨格は強靭に作られている。
うん?何かあったの?そんな感じである。ましてや牛などが・・・
大山は牛の首、頭を中心に攻撃する。
ヘッドロックをし牛を振り回す。
そしてラストは二本の角が折れ、大山勝利という寸法であった。
筋書きのあるショー、牛の骨は確かに折れたが、拳の快挙は見てとれない。
角に手刀もしくは正拳が当たった刹那は写し出されていないのだ。
ただむなしく二本の角がアップされるだけであった。


このあたりに大山の商才が見て取れる。空手家より実業家としての素質があったのだろう。
極真会館は後に分裂を起す事になるが、一代であれほどの大組織を作り上げた手腕。
大山はより効果のある宣伝手法をこの頃考えていたはすである。
やがて媒介が見つかる。
・・・梶原一騎であった。

〜続く〜