箱舟が出る港 第七章 二節 激動の波頭 七

カンテラの頼りない灯りに混じり、穴底の周囲の壁を攪拌する光が忽然と
加わった。
とろけるような青い色合いで、土を石を岩を段々と駆逐し、三人を円形の
舞台に引き上げるように曳航している。
生き物のような光は縦や横そして斜めからの法則性のない交差であったが、
すっかりと周囲を覆ってしまったのである。
三人はここが掘削した日立の山の、地下20メートルである事を忘れ、あっけ
にとられ、180度の青いパノラマを凝視している。
まだ何かが来ると予期した事ではあるが、幻覚かと知流は思った。 それとも
狂ったかと首を振った。
北北東500メートルの至近距離にある山の地下は、コバルトで溢れているのだ。
γ線の存在を発見したのが十日前。
その穴は急遽銅を流し込み暫定的に封鎖したが、被爆した可能性を思った。
とうとう俺たちもやられたのかと、あきらめに似た足は、立ち上がる事を拒否
した。
アタマが正常だとしたのなら、死の域を見ているのかと思った。
未曾有の事象が次々と現れ、人間と言う個体の常識を覆す神々しい者を追い
かけ、その尻尾を苦労して掴みつつはあった刹那である。
鉄板の下にある異次元宇宙の発見までが、限度であった。
こうなるといかな知流源吾であっても、もはや自らの精神を疑わなくてはなら
ない域の現象であった。
理解しようと勤める気力が萎えていく事が分かる。
大汗が体から流れるが、自分のものとはとうてい思えない。
やがて光は彼らを囲むように渦を巻き、数えきれない程の舞を舞った後、蝶が花
に止まるような感じでピタリと動きを止めた。
四方八方が青また青の空間である。
空間は三人を観察しているように思えた。
より濃い青が針先のごとく一点から飛び出し、源吾の懐を刺した。
例の石が未知なる力により、大切にしまった懐からふわりと出、三人の頭上に
ピタリと止まった。