箱舟が出る港 第二劇 一章  エピソード

数知れぬ星星らしき光芒の中で、前方にあるひとつの光点が変化して
いる事を、山口は気づいた。
それは車のパッシングにも似て、中心にある光源が追い越そうと、膨らんで、
迫ってくるようであった。
光は虹を悪意に曲げたのか、光芒の輪郭に冷たい七色の氷が滑り落ちている
ようで、寒々とした印象を受けた。
山口は浮世の中で、人事も受け持ち、面接の仕事も十分に経験していた。
人を見る目が重く養われていた。それは【死亡?】し、実態のない幽霊の如き
透き通った体を持った今でも変わらず、これは危険だ、避けたほうがいい、
と瞬時に見抜いた。
受け入れてはいけないのだ。
自分にその悪意が注がれてはいないようだ。と言うよりその光源は、山口を
感知出来ないのか、兆光は体を突き抜ける。ならば! ならば!!
悪意のある光源は数メートル離れた宇宙船に、ピタリと照準を合わせてい
るように感じる。
―――ボイジャーを破壊するつもりか?
意識的にその宇宙船から、山口は、離れた。逃げる為ではない。これから
何が起こるのか、観やすい場所へ移動するのだ、見届けよう。
ウィィーン ウィィーン・・・
突然鳴り出した音に山口は振り返った。古びたボイジャーが唸りを上げて
いる。まるでこの時を待っていたように、老船は全身からエネルギーを放出
している。サナギが蝶に変わるように、船体の形が、変わっていく。
皮膚たる錆びた金属が剥がれ、塵の舞がボイジャーをひらひらと包んでいる。
よろよろと漂流していた船が、今、眠りから覚め、明らかにその意思を開いた
のだった。
―――もしかして、もしかして・・・ボイジャーはこの時の為に打ち上げ
られたのではないのか?
目視で約三十メートルほど離れた空間に、山口は浮び、刻印された合衆国
星条旗を見ていた。
―――あの音は・・・
すると船体の上部、高利得アンテナが壊れ、代わりに砲塔らしきものが三本
現れた。それはまばゆいばかりの黄金色の光を放っていた。
―――戦うつもりか?  相手は何者か?
ボイジャー1号が打ち上げられたのは1977年9月。直径3.66メートル、
高さ47センチ、重量にして約800キロ。お皿が頭、ドーナツを付けたような胴体。
悪意のある虹の七色の中心の光源は、今や野球のボールほどの大きさに
近づき、ボイジャーに狙いを定めていた。レーザービームのようにボイジャー
のブースを捉えようと上下左右に照射している。
だが・・・何かが遮断している事を山口は感じた。七色の光源とボイジャー
の間に、透明な何かがある。
―――そうか・・・ヘリオポーズの区域かも知れない・・・