箱舟が出る港 第六章 一節 残照 七

murasameqtaro2007-03-27

伏見実と、時同じくして
土浦市
立花ちえ美はやっとの思いで、
駅ビル東口を駆け下りた。
サングラスをかけたり、
カツラをつけたりと思いつく
限りの変装を試みたが、あまりにも有名に
なりすぎた。
ちえ美はチーコと呼ばれている。
パパラッシュよろしく迫る
マスコミのストロボが怖い。
かつて自信に溢れていた応じる笑顔は、
いまや卑屈になっている。
彼氏には一方的な別れを告げられた。
数週間前まではリムジンで移動していたが、この耐え難い零落。
電車で移動するのは、本当に久しぶりだった。
コンサートの為の移動ではない、まるで逃亡者のような帰省である。
私の夏はもう、終わりだね・・・と何度も何度も、奥歯を噛み締めた。
無理もない、意思とは裏腹に体が勝手に反応してしまった、痴態極まる
あの武道館のコンサート。
MMV(ミステリー・マインド・ウイルス)に感染していた、と世間に認められ
はしたが・・・




土浦で降り、実兄の友人を頼るつもりだった。
お寺の住職をしている。
住職から救いのメールが入った。
ほとぼりは僅かな時間のはずである。
芸能ゴシップなど吹っ飛ぶような竜巻が、事件として猛威をふるっている。
実家のある石岡市の両親は許してくれまい、勘当されて、芸能界に入った。
一流にはなったが、地獄の底に堕ちてしまった。
時を置き、ほとぼりが冷めたら、兄の居る水戸に行くつもりだった。
仲間のボーカリストの二人にも、連絡も取れないし、連絡もない。
向こうも同じ状況と思われる。
カメラを回す汚い口ヒゲが、ちえ美の乗ったタクシーを追う。
SUZUMEこと木ノ内ひろみは埼玉県草加市立図書館近く、MIKAこと
鳥谷部ミカは白金台は明治学院大学付近の、ある場所、へ行くと言う。
また会えるかな? と互いにうつむき加減で足早に分散していったのが
最後だった。
二人にとっては故郷ではない、許容し匿ってくれる優しき者がいるよう
であった。
ちえ美は外国に行こうと思ったが、MMVに感染している女性のパスポートを、
世界各国は取り上げてしまった。
三人は最近までロックバンドのトリオボーカリストであった。
その超人気バンドの名はクリスタル★ジェネレートと言う。
日本のロックミュージックシーンを圧巻して三年になるが、熱狂的な人気
のピークはまだまだ高い場所にあるようだった。
心の異常な高鳴りは軽犯罪法日本武道館でのあられもない姿態、アイドル
どころか、人生を失った。
不幸中の幸いかMMVのおかげ執行猶予付きで釈放はされたが、恒常的な麻薬
使用との疑いもあり、一時は三人を重犯罪者にしたて上げてしまった。
どうしたのだと言うのだろう。
魔がさしたで片付けられる程の、どこにでもある心の変化ではなかった。
やはり病気なのである。
人格はそのままであると分析をする。
操られているとの思いが強い。
正にミステリーマインドだった・・・・